俺が高坪を彷徨って迷い込んだ先は、馬の食事場だった。
周囲に人気がない中、実に7頭もの馬が一ヶ所に寄り添って干し草を食べていた。
予期しない珍客との遭遇に、ちょっとだけ驚く馬もいる模様。
兎に角皆がひとつの飼い葉桶に首を突っ込み、一心不乱に食べている。
一旦その輪から外れてしまうと、再び割って入るのも大変だ。食事時の光景というものは、馬でも人でも変わらないようだ。
小さい芦毛の子は、白い馬の子供か年下のきょうだいかもしれない。ぴったりと寄り添って、一緒に草を食べている。
よく見ると白い子は、前髪がワイルドだ。ちょっと雰囲気がツァビデルに似ている。
小さい芦毛の子は、やはり他の大人たちに比べて不利だ……。
と、思ったら足元にも食べ零しの飼い葉がたくさんあるじゃないか。
まだ背が低くても、安心して食事にありつけるようで良かった、良かった。
黒鹿毛の子は、たまに栗毛の子の背中に付いた草を取ってあげている。仲睦まじい恋人みたいだ。
でも、栗毛の子はやっぱり初めて見る俺のことが気になるみたい。
よく見ると、均整の取れた流星は口元まで延びていて、なかなかの美人さんだ。
しかし、栗毛の子がその草を横取りしようとしたので、白い子は怒った。
栗毛の子は足元の草に未練たらたらの様子だが、やがて諦めて飼い葉桶の中身を食べ始めた。
無事に子供(?)の食事が守られて良かった。寄り添う2頭の姿は涙ぐましい。
……その後は特にドラマめいたことは無く、馬たちが只管飼い葉を食べ続けているだけだった。
しかし、馬はただその姿を見ているだけでも心が暖かくなる。俺にとって、馬は其処に居てくれるだけで全てに勝る存在だ。
そろそろ馬たちも食事に集中したいようなので、俺も出発しよう。
今の目的は勿論、宇迦神社を探すことなのだが、道に迷った結果としてこんなに嬉しい光景に出会えた。やはり寄り道と迷子はしてみるものなのだ。