千本カツラを始めこのあたりの森は、かつて此処にあった金鉱で働いていた男たちが、外敵の侵入に備えて植えたものだと伝えられている。
確かに、川一本隔てただけで、小友の街があんなにも小さく、別世界のように感じられる。
やがて足元は砂利になり、冬支度を始めた木々が振るい落とした木の葉の絨毯と化した。
あれ?!
強引に横道に入ったりしてみたものの、其処に千本カツラは無く、ただ低木によって形成される藪の中に入って行くだけだった。
道に迷い易い人が犯す最大の過ちは、自分が今道に迷っているという現実をなかなか受け入れないことだ。それが早々に出来るようになったあたり、俺も成長している。
結局、元の道に戻ってちゃんとあたりを見渡したら、遠野遺産の看板が出ていた。
看板を目印に橋を渡ると、何だか空気が変わったような気がした。
長い年月を生きてきた木というのは、其処に立っているだけで計り知れないパワーを発しているものだ。きっとこの感覚も、千本カツラが近いことを意味しているに違いない。
農家の裏庭のような、あってないような道を進んだ先に、果たしてその大木の姿はあった。