遠野放浪記 2013.09.15.-06 往生際 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

無念の琴畑林道脱出を決め、引き返した俺は雨に打たれながら三叉路まで戻って来た。


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先程は気付かなかったが、三叉路の中央には木の枝が垂直に立てられ、其処に「先に帰る」というメモが引っ掛けられていた。

恐らくふたりで山へ向かったものの散り散りになってしまい、其処へこの雨で片方が一刻も早い帰還を決断したのだろう。この先は道程は長いが、緩やかな下りでそう歩き辛くもないため、メモの主は大丈夫だろう。彼のパートナーの無事を、俺も祈って行く。

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琴畑川とも、短い別れだった。

この雨のせいで、川の表情にも陰りが見られる。「早く帰りなさい」と俺を心配してくれているのだろうか。

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往生際が悪い俺は、帰る途中で「長者森橋」というボロボロの橋を発見し、それを渡ってみることにした。

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長者森といえば、今回の目的地からさらに尾根伝いに宮古の小国まで分け入って行くと辿り着ける山だ。 その名前を冠した橋の先には、何か面白いものがあるのかな~?と、せめて目的地に辿り着けなかった悔しさを晴らそうとしていたのかもしれない。

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しかしその先は、さらに森が深くなるばかりで目立ったものはなかった。

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この先はまた別の山に通じているのだろうが、雰囲気も何だか心細く、琴畑林道のそれとはまた違う気がした。

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やがて、道は完全に草に覆われて見えなくなってしまったので、引き返すことにした。

道は必ずしも何処かに通じているわけではない、ということを思い知らされた瞬間だった。

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結果的に俺の挑戦は完敗に終わったわけだが、この先にはまだ開けていない扉があることを改めて実感出来ただけでも充分な収穫だった。俺はまだ遠野に対して挑戦者の立場でいられる。

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雨足が少しずつ強くなる中、琴畑の集落を目指して林道を走る。

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帰り道は緩やかな下りなので、砂利道で走り難いとはいえ幾分か体力の回復を図れるので有り難い。

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途中に何ヶ所か、小さな広場のように背が低い草に覆われた場所がある。

人間の営みを感じられる光景だ。或いはもしかしたら……?

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やがて、琴畑川の流れがどうどうと音を立て始め、行く手に小さな赤い鳥居が見えて来た。

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ようやく不動堂まで戻って来ることが出来た。この先も雨足を考慮すると、決して安全な旅路とは言えないが、一先ず“人がいる場所”まで生きて帰れたと思って良さそうだ。