
街外れはもうじき何も見えないくらいの闇に包まれるだろう。

夕方になって雲も多くなって来たので、残念ながら星空も望めそうにない。

静かな街をゆっくりと下る。道端や各家庭の畑には、鮮やかな色の花が数多く座している。

初めて遠野に来て、綾織を歩いた日も、控え目ながら綺麗な花の姿がとても多いことに気付いた。
東北の短い春を謳歌するために、人々はその象徴的なモノを求めているのかもしれない。

遠くの方ではまだ子供たちが遊ぶ声が微かに聞こえていたが、それもやがて消えて行った。

俺以外にこの道を歩く人の姿は無い。

駅から少し離れただけで、街はこんなにも違う姿をしている。


外来者はまず通らないであろう細い道を歩き、東舘町まで下る。

来内川を渡り、駅前へと続く大きな通りに合流。

突き当たった交差点は、懐かしい日枝神社や欠ノ上稲荷神社へ向かう分かれ道だ。

今でこそその機会は殆ど無くなってしまったが、学生時代には日枝神社の東屋に何故かあるソファーに大変御世話になって来た。図らずも綾織から市街地へと廻る今回の遠野滞在では、実にたくさんの記憶が掬い上げられたように感じた。
もうすぐ夕闇に沈む交差点の明かりを眺めていて、ふと様々なものが込み上げて来て視界が霞んだ。