16時55分、汽車はほぼ定刻通り綾織駅に到着。
綾織駅を訪れるのは、厳冬期の高清水に挑んだ1月以来、およそ4ヶ月振りだ。
夕暮れが近付く田園地帯の中にぽつんと立っているホーム。汽車が行ってしまい、俺以外誰もいなくなったその情景が記憶の奥底を擽る。
綾織駅から直接釜石街道に出る道は無いので、車の喧騒とも此処は無縁。ホームの端に座って、一日中いろいろなことを考えながら過ごしてみたい。
釜石線の駅の中でも、取り分け俗世間から隔絶された印象がある綾織駅周辺の晩春の風景は、きっと美しいに違いない。俺の中にはそんな確信があった。
駅周辺はそこそこ民家が多いが、この時間帯だからか人の姿は殆ど無い。
集落を抜け、広大な水田地帯に出た俺の目には、春の終わりを迎える遠野がくれた宝物のような景色が広がっていた――。