その日、俺は遠野から真っ直ぐ家に帰らず、敷かれたレールを外れて岩手県内を北上した。
姉帯さんの故郷である(と思われる)姉帯村を訪れるために。
姉帯村は1957年まで二戸郡に存在していた村で、現在の二戸郡一戸町は姉帯~面岸(おもぎし)に当たる。青森県との県境に近く、盛岡より北に行ったことが無い俺にとっては、全く未知の領域だ。
今回は一日余分に貰えることになった休日を使い、嫁がどんなところで生まれ育ったのかを見に行こうというわけだ。
朝早くに遠野を出発した俺は、花巻でいつもとは逆に盛岡へ向かい、さらにいわて銀河鉄道に乗り換えて北へ北へ。姉帯の最寄駅は小鳥谷(こずや)なのだが、今回は一戸の他の場所も見てみたいと思い、ひとつ先の一戸駅で下車した。
姉帯さんが通っている宮守女子高校の最寄駅である宮守駅からは、ここまでたっぷり3時間近くかかる。姉帯さんの朝は早いようだ。
まだ一戸駅がJRの駅だった頃には、特急や寝台特急が停まる重要な駅で、たくさんの人々で賑わっていた。IGRの駅になってからも、一戸町の主要駅であることに変わりはないが、当時複数あったホームもひとつを残して撤去されてしまい、面影はあまり残っていない。
駅舎内はかなり広く、コンビニも併設されている。しかしやはり列車が来ない時間帯には、人も少なく少々寂しい。
ベンチの前にはまだストーブが置かれていて、県北の寒さはまだ厳しいのだということが感じられる。
今日は一日かけて、一戸から小鳥谷へ、そして姉帯を巡る。まだ知らない岩手の街は、俺にどのような刺激を齎してくれるだろうか?