遠野放浪記 2013.05.03.-18 雨の後の世界 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

小峠トンネルを抜けた先では、とうとう雨が降っていた。

覚悟していたとはいえ、遠野までもう少しだけ持ってくれなかったものかと。


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しかしトンネルで数分雨宿りしただけで、すぐに雨は上がってしまった。

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その後はまた青空が広がり、地面さえ殆ど濡れることはなかった。

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さあ、此処からはみさ崎まで一気に坂道を下るだけだ。

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千葉家、続石、愛宕神社……このあたりは5年前、一番最初に遠野を訪れた際に通った道だ。

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何もわからない暗闇の中で道に迷った末に、どうにか辿り着いた千葉家の前で夜明かししたっけ。

愛宕神社参道のあまりの荒れ様に、廃社だと思って引き返したんだよな。

遠野で積み重ねた様々な記憶が、漣のように脳裏に押し寄せてくる。全ては確かに俺の中に残り、時々顔を出してはこうやって悪戯っぽく記憶を擽ってくるのだ。

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ふと遠くの稜線を見遣ると、笠通山の中腹から空に向かって虹が延びているのが見えた。

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虹はほんの数秒だけ俺の目に触れた後、透明な空に溶けて消えてしまった。

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昨日の前沢に続き、二日連続で虹が見られるとは何という幸運だろうか。

雨が上がれば、其処には新しい世界が広がっている。そう考えれば、雨の旅も捨てたものじゃない。

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下り坂が終わって平坦な道になったら、集落を抜けて遠野バイパスへ。

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日影橋を渡って市街地を目指す。

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此処から先がまだ長い。釜石線の綾織~遠野間はおよそ5kmなので、当然道路を通ってもそれくらいは距離があるということだ。

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薄曇りの猿ヶ石川が控え目に俺を励ましてくれているように感じられた。