俺が蕎麦を食べている間にも雪はどんどん激しさを増し、花巻は吹雪に見舞われていた。
雪国の列車はこれくらいでは止まったりしないだろうが、一年最後の日に故郷の街を目指す人たちにとってはとんだ天気になってしまった。
俺は跨線橋を渡り、東北本線が到着する2番ホームへ急ぐ。
花巻の空はくすんでいて、街を抜ける大通りの彼方はもう見えなかった。
長い岩手の冬はまだ始まったばかり。もう間もなく、街は雪に埋もれてしまうだろう――。
やがてやって来た列車に乗り込み、俺は南を目指して旅を続ける。
旅の疲れに加え、おなかがいっぱいになったことで睡魔に襲われてしまい、列車が走り出したと同時にぐっすり……。気付いた頃にはもう一ノ関が目前に迫っていたが、このあたりまで来ると再び空は晴れ、来るときにはあった雪もその殆どが姿を隠していた。
ここも後数日もすれば、大地を春までの眠りに就かせる根雪が舞い降りるのだろう。
列車の中は空いている。こんな日に長い時間をかけて東京を目指す酔狂な旅人など、俺以外にいないだろう。
列車は間もなく一ノ関に到着する。岩手県ともまた暫くの間、お別れである。

