快速はまゆりは宮守から30分ほどで花巻に到着。この後すぐに進行方向を変え、盛岡に向かって行ってしまうので、俺は余韻に浸る間もなく列車を降り、乗り換え先のホームに向かった。
東北本線もローカル線ではあるが、釜石線に比べれば日本の動脈路線であり、幾分かローカル線の雰囲気は失われてしまう。毎度釜石線とお別れする瞬間が寂しい。
宮守を出るときには快晴だった空に、少し雲がかかり始めていた。日差しはあるものの、これから少し天気が荒れるかもしれない。
幸いそう待たずに一ノ関行きの列車がやって来るようだったので、俺は早々に乗り換えの列に並んだ。
花巻から一時間程南下すると、岩手県の玄関口である一ノ関に到着だ。
玄関口だということは、今日は岩手とお別れする最後の駅だということになる。
次の列車までは30分弱待ち合わせ時間があったので、俺はただじっと待つのもアレかと思い、散歩に出てみることにした。
空からはほんの僅かではあるが、白いものが舞い降り始めていた。一ノ関の街からは、冬の北国特有の活気が感じられた。
一ノ関には厳美渓や猊鼻渓といった景勝地が数多くあるが、無論30分程度で行けるわけがない。精々駅前をぶらぶらする程度が関の山だ。
駅前には飲食店や観光案内所が軒を連ね、たくさんの人が集まってきているが、やはり一本路地に入ると、途端に人気がなくなり、冷たい空気が停滞しているのを感じる。
裏通りにも飲食店はあるが、どちらかというとスナックや居酒屋といった夜の店が多い。暗くなり、駅前が閑散とする頃には、今度はこちらの道に妖しいネオンが輝き、昼間とは違う顔をした人々が集まってくるのだろう。
普段から大きな街として名前を覚え、列車の乗り換えで滞在することはあっても、実際に外に出て歩いたことがある街は意外に少ない。どうしてもイメージばかりが先行すると、実際にその街に初めて触れたとき、現実と想像のギャップに驚かされる。
しかしそれこそが旅の醍醐味のひとつであることは紛れもない事実だ。
この頃から、俺はただ遠野から真っ直ぐ家に帰るのではなく、ふらりと気が向いた場所で列車を降り、小さな街を歩いてみるのも面白いと考えるようになる。
一ノ関を出ると、岩手とはお別れだ。
今は東京へ帰る旅を続けよう。