遠野放浪記 準備編-5 仲間を探そう | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

本郷に移住した俺が最初にやったことは、エリザベス・トンプソンに代わる新しいパートナーを探すことだ。


昔から自転車と共に育ってきたと言っても過言ではない俺にとって、自転車が無い生活は考えられない。日常生活を送るだけでも、自転車は必須だ。

また今回は月途中での転居となったため、月が替わるまで職場への交通費が支給されなかった。通勤の手段としても、早急に新しい相棒と出会わなければならなかったのだ。


俺は小石川にあるルイーダの酒場的な店(自転車屋)に向かい、俺と一緒に旅に出てくれそうな子を探した。その店にはいろいろなタイプの子がいたが、中でも一番俺の目を引いたのは、店の真ん中のお立ち台で眩しく輝いていた、青光りするイカしたボディのアイツだった。

俺は基本的に、何かを決める際にはノータイムで即決するか、とことんまで悩み続けるかのどちらかだ。今回は当然迷う要素などないので、すぐに彼女を新居に連れて帰った。


次の日から、早速彼女との生活が始まった。

初めての共同作業は、蔵前にある職場への出勤。本郷から蔵前までは歩いても50分程度、自転車ならば30分もかからない短い道中だが、やはり新しい相棒と初めて走る道は緊張する。

しかしそれ以上に、最初の一歩を踏み出した瞬間の胸の高鳴りは、少なくとも彼女と一緒にはもう二度と味わうことができない、たった一度きりの興奮なのだ。


これから彼女と一緒に新しい街で暮らし、新しい旅に出るのだ。

エリザベスと過ごした時間は、勿論何にも代え難い大切な思い出だ。しかしこれからは新しい相棒と、新しい思い出をたくさん作っていきたい。昔は良かった、いや今のほうが良い、と比較するのではなく、今も昔も違った良さがある。それが理解できるような、一歩成長した生き方をしたいものだ。


俺は彼女を「パトリシア・トンプソン」と名付けた。