遠野放浪記 準備編-3 リハビリテーション | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

本郷への移住を機に、俺の生活は少しずつ平穏を取り戻していた。


何かひとつが上手くいき始めると、不思議とそれに付随して様々なことが上手く回り出すもので、あれほど伸び悩んでいた仕事も徐々にではあるが評価してくれる人が出てくるようになってきた。同期に比べて成長は遅いし、要領も決して良くないが、それでも「お前に期待してこれを任せるぞ」と言ってくれる人がひとりでもいることで、今日まで諦めずにやってきたことが間違いではなかったと実感できて本当に嬉しい。

今後しばらくは東京で働き続けるのか、それともある日突然遠野に転勤することになるのかわからないが(最近社長の筆者遠野転勤ネタが冗談に聞こえなくなってきたからちょっとコワイ)、俺を必要としてくれる人がいるならば、そこへ行って全力を尽くすことを信条に生きていこうと思う。


仕事が充実してくると、精神的にもさらに余裕が出てくる。こうなってくると、完全に良い軌道に乗った感じだ。

大好きな旅も再開することができ、長野から野麦峠を越えて政井みねさんの墓参りに行ったり、小諸から小淵沢まで小海線を乗り潰しに行ったりした。知らない土地へ旅し、知らない文化を知ることで、自分の日常もこれまでとは少し違ったものになる。最初からそれを目的に旅をするわけではないが、旅から得られるものは実に計り知れない。


ただこの頃の俺は、不思議と以前のように「何が何でも遠野に行きたい」という気持ちを抱いていなかった。遠野以外にも、日本には魅力的な土地がたくさんあることを知ったし、それはそれでとても素晴らしい経験なのだが、逆に遠野よりも手軽に旅に行ける場所が多くなったことで、ちょっとした浮気に走っていたのかもしれない。

上手く言葉にすることは難しいが、長野や岐阜といったあたりは非常にエキセントリックな雰囲気を持つ土地で、遠野以外の場所を殆ど経験したことがなかった俺にとって、それは一種の劇薬のようなインパクトを持っていたのだ。


そのようなわけで、俺が遠野との倦怠期を脱するのはもうしばらく先のことである。