先日の母の日で、ひとつ母について思い出したエピソードがある。
それは、1人目の妊娠中の話。
4年前、29歳の秋。
1人目の妊娠が分かった。
嬉しくて、胎嚢確認後の産婦人科の帰り道、空も空気も花も、全てが輝いて見えた。
何もかもが、私に笑いかけているような、そんな浮かれた気持ちだった。
旦那は喜びと、そして父親になるという緊張で、顔が喜んだり、引き締まったりしていた。
両家の親にはいつ頃報告しようか。
安定期近くに入ったら伝えようか。
そう話し合い、年末か年明けごろに、と決めたのだった。
それから2ヶ月が経った。
夕方、つわりでしょっぱいものが欲しくなり、チキンラーメンをそのままかじっていた時だった。
スマホが鳴り、母の名前が表示された。
「もしもし?」
電話に出ると、いつもの母の声がした。
「やっほー、元気?」
明るい母の声。
「ぼちぼちかな。どうしたの?」
母は暇になるとたまに電話をかけてきて、長話をする。
ただ、忙しい夕方にかけてくる事は珍しく、少し不思議に思った。
「あのね」
母が言う。
「お母さん、ガンになっちゃった」
明るい母の声色とは合わない内容が、スマホを通して耳に響いてきた。