信濃毎日新聞 社説

【原子力発電は危険性を伴う。その危機感よりも安全性が強調されて、備えが不十分だった結果、重大な事故が起きた―。

 こうした現実が、政府の東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会の中間報告によって、はっきりしてきた。

 原発の現場では、1号機にある非常用の原子炉冷却装置を作動させた経験や訓練もないなど、各号機の冷却操作で不手際や認識不足があり、炉心損傷を早めた可能性がある。この指摘は重い。

 避難の指示では、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)が活用されず、「ともかく逃げろ」というに等しかった、とした。

 官邸や経済産業省原子力安全・保安院、東電の間で情報共有や伝達が不十分だった。意思決定が主に首相官邸の5階で行われ、地下の緊急参集チームとのコミュニケーションが足りなかった。

 こうした事態を引き起こした大本は、国や東電が津波による過酷事故を想定せず、複合災害という視点もなく、対策を講じてこなかったことにある。

 東電は、想定を大きく上回る津波が原発に来るリスク評価を得ながら、仮定にすぎないとして対策をとらなかった。

 今回の中間報告は、多くの関係者から聴取もして詳細な事故経過のほか、当時の認識や心情にまで迫った。安全を後回しにしてもたれ合う東電と保安院の実態を浮かび上がらせている。

 来年4月に発足予定の原子力安全庁(仮称)に独立性や組織力を与えるよう求めた。

 まだまだ解明してほしいことがある。最終報告に向けて、次の点を要望したい。

 一つは、当時の閣僚らからの聴取である。避難指示や情報公開の意思決定はどうだったのか。遅れや隠蔽(いんぺい)はなかったのか。菅直人前首相はじめ政権中枢にいた政治家に問いただしてもらいたい。

 二つ目は、安全への備えが不十分な体制がなぜ出来上がったか、その経過の解明である。電力業界、政治家、行政の実態にもっと鋭くメスを入れるべきだ。

 さらには、地震の振動による影響、水素爆発の原因、風評被害、自治体の動きへの踏み込んだ分析がないとの批判も出ている。検証を深めて、全容を解き明かす内容にしてほしい。】

 原子力村の、持たれ合いの無責任体制の全容を、白日の下に晒し、原発が、地震の振動に耐えられなかった実態を、最終報告には是非盛り込んでいただきたい。

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