新潟新報 社説
【 放射性セシウムを含んだ稲わらを牛に与えていた問題が全国に波及している。

 福島県だけでなく宮城、岩手県産の稲わらからも国の暫定基準値を超えるセシウムが検出された。
 稲わらは県境を越えて広く出荷され使用されていた。これを餌として与えた可能性のある牛が既に出荷され、全国各地に流通している。

 安全性を確かめ、風評被害を食い止めるには、汚染された疑いのある牛の全頭検査を徹底するしかない。
 一方、稲わら汚染問題が投げ掛けたのは、身の回りの「まさか」を徹底して洗い出す必要性である。
 稲わらは福島第1原発事故後も屋外に置かれ、汚染された。

 農林水産省は原発事故後、屋内に保管していた飼料だけを使うよう周辺自治体に通知したとしている。だが、稲わらは昨秋に屋内に回収されたと思い込み、通知には明示せず、放射線検査の対象からも外していた。

 稲わら汚染が発覚した後も「一部の不適切な対応」と危機感は薄く、対応が後手に回った。
稲わらが広範囲に取引されている流通実態さえ把握できていなかった。
認識の甘さを責められても仕方がない。

 出荷した農家には、汚染されているかもしれないという認識がなかった。周知徹底されていないということだ。稲わらや肉牛の生産者も「もしかしたら」の警戒感は持つべきだった。遠隔地のホットスポットをはじめ、汚染が広がっている実態があったからだ。

 こうした事態が続けば、消費者がいくら冷静な行動を心掛けようと思っていても、疑心暗鬼や不安は広がるばかりである。

 民間の検査機関には、消費者やスーパーから牛肉などの検査依頼が急増している。国の対応を待ってはいられないと考えての自衛策だろう。
 稲わら汚染を受け、水田への影響を懸念する専門家もいる。

 稲わら以外に見逃しているものがないのかどうか。国は、念には念を入れ、きめ細かく放射線量を調べて国民に情報提供し、健康被害への不安を一つ一つ取り除くべきだ。

 地元自治体は、国以上に細かく目配りし、多角的に調査を進めることで今回の稲わらのような「盲点」をなくさねばならない。

 牛肉の売り上げが落ちているスーパーもある。焼き肉店などは集団食中毒事件で打撃を受けているところに、追い打ちを掛けられた。不安の連鎖を早く絶つ必要がある。

 畜産農家が受けたダメージは大きい。国は補償をはじめ力強い支援策を打ち出していく責務がある。
 「まさか」を繰り返してはならない。】