book.asahi.comより
【 東日本大震災で起きた東京電力福島第一原子力発電所での深刻な事故。原発と事故に関して理解するには、さまざまな基礎知識が必要になります。今回はそのために役立つ本を中心に選びました。
■ブックファースト新宿店・小松崎文子さんのおすすめ
(1)日本の原子力施設全データ [著]北村行孝、三島勇
(2)図解雑学 放射線と放射能 [著]安斎育郎
(3)原子力発電がよくわかる本 [著]榎本聰明
▽記者のお薦め
(4)私たちはこうして「原発大国」を選んだ [著]武田徹
原発事故を理解しようとして、改めてぼうぜんとするのは、きわめて多方面の知識が必要になることだ。
原理は物理学で、物質の構造とか原子の構成要素といったお話から始まる。発電に利用するのは工学の分野で、人体への影響については医学や公衆衛生の考え方が不可欠になる。放出された放射性物質が環境中でどう振る舞うかを考えるには、化学、生物、気象、海洋、土壌などの知識も要求される。加えて、原発が導入された社会的な意味を考えるには、政治や経済などの知識もいる。
つまり原発は、高度に複雑化した現代社会の縮図そのものだ。今回はできるだけ原理的部分の理解の手助けとなる本を選んでもらった。
原子力施設といえば、原発以外にも核反応を扱う施設は多い。それを思い知らせたのが1999年9月30日のJCO東海事業所臨界事故だ。(1)『日本の原子力施設全データ』はそうした原子力施設を網羅し、身近にどんな施設があるかを知るのに役立つ。「原子力発電に関する基礎知識や安全対策も読める手に取りやすい1冊」と小松崎さん。過去に起きた原子力施設での主要な事故もまとめられていて便利だ。
(2)『図解雑学 放射線と放射能』は2ページ見開き1項目で右側をイラストに充て、核反応の仕組みをわかりやすく図解した入門書。「放射線と放射能の違いだけでなく、人体に害を及ぼす仕組みなども解説しています」(小松崎さん)。人への健康被害にも触れられている。在庫が少ないので、お早めに。
(3)『原子力発電がよくわかる本』の著者は、東電柏崎刈羽原発所長と同社副社長を務めた。「原子力発電を支える技術体系全般についてわかりやすく解説。資源問題・エネルギー利用とリスク・環境への影響や経済性にも言及している」と小松崎さんがいうとおり、定期検査項目や手順など、当事者でないと説明しにくい技術解説が豊富だ。半面、今回の事故に関する東電の情報公開の遅さや不適切さを見た今では、チェルノブイリ事故の解説箇所で「パニック状態において国、地方行政、報道機関などが迅速で正しい情報を住民に提供することがいかに大切か」と主張しているのにあぜんとする。
記者が挙げる(4)『私たちはこうして「原発大国」を選んだ』は、原発という社会的選択をした日本の歩みを総合的にとらえようとする野心作。東日本大震災を受けて書かれた増補版前書きに「原子力を拒否するにしても、その選択により社会的弱者にしわ寄せがいかないかどうかはきちんと検討する必要があります」と指摘するように、平板な原発推進でも反対でもない視点を提供する。(丹治吉順)
〈見るなら〉チャイナ・シンドローム
この映画をいま見せられた日本人は、誰でもいや応なく200%の理解度で共感できるだろう。
福島第一原発のニュースで見慣れてしまった沸騰水型の原子力発電の仕組みも映し出される。「原発はあらゆる事故を想定してつくられている」という電力会社の殺し文句も聞かされる。見終わると、臨界点を超えた理解はあらん限りの悪罵の言葉を思いつかせ、心がメルトダウンするはずだ。
米国ロサンゼルスのテレビ局が原発内部を取材中、異常振動とともに圧力容器の水位が下がるトラブルを目撃した。炉心溶融寸前の危機だったが、電力会社は真相を隠蔽(いんぺい)。原因の手抜き工事を見抜いた原発技師は命をかけた内部告発を決意するというストーリーだ。
1979年3月に全米公開された12日後、スリーマイル島の原発事故が起きたのだった。】
【 東日本大震災で起きた東京電力福島第一原子力発電所での深刻な事故。原発と事故に関して理解するには、さまざまな基礎知識が必要になります。今回はそのために役立つ本を中心に選びました。
■ブックファースト新宿店・小松崎文子さんのおすすめ
(1)日本の原子力施設全データ [著]北村行孝、三島勇
(2)図解雑学 放射線と放射能 [著]安斎育郎
(3)原子力発電がよくわかる本 [著]榎本聰明
▽記者のお薦め
(4)私たちはこうして「原発大国」を選んだ [著]武田徹
原発事故を理解しようとして、改めてぼうぜんとするのは、きわめて多方面の知識が必要になることだ。
原理は物理学で、物質の構造とか原子の構成要素といったお話から始まる。発電に利用するのは工学の分野で、人体への影響については医学や公衆衛生の考え方が不可欠になる。放出された放射性物質が環境中でどう振る舞うかを考えるには、化学、生物、気象、海洋、土壌などの知識も要求される。加えて、原発が導入された社会的な意味を考えるには、政治や経済などの知識もいる。
つまり原発は、高度に複雑化した現代社会の縮図そのものだ。今回はできるだけ原理的部分の理解の手助けとなる本を選んでもらった。
原子力施設といえば、原発以外にも核反応を扱う施設は多い。それを思い知らせたのが1999年9月30日のJCO東海事業所臨界事故だ。(1)『日本の原子力施設全データ』はそうした原子力施設を網羅し、身近にどんな施設があるかを知るのに役立つ。「原子力発電に関する基礎知識や安全対策も読める手に取りやすい1冊」と小松崎さん。過去に起きた原子力施設での主要な事故もまとめられていて便利だ。
(2)『図解雑学 放射線と放射能』は2ページ見開き1項目で右側をイラストに充て、核反応の仕組みをわかりやすく図解した入門書。「放射線と放射能の違いだけでなく、人体に害を及ぼす仕組みなども解説しています」(小松崎さん)。人への健康被害にも触れられている。在庫が少ないので、お早めに。
(3)『原子力発電がよくわかる本』の著者は、東電柏崎刈羽原発所長と同社副社長を務めた。「原子力発電を支える技術体系全般についてわかりやすく解説。資源問題・エネルギー利用とリスク・環境への影響や経済性にも言及している」と小松崎さんがいうとおり、定期検査項目や手順など、当事者でないと説明しにくい技術解説が豊富だ。半面、今回の事故に関する東電の情報公開の遅さや不適切さを見た今では、チェルノブイリ事故の解説箇所で「パニック状態において国、地方行政、報道機関などが迅速で正しい情報を住民に提供することがいかに大切か」と主張しているのにあぜんとする。
記者が挙げる(4)『私たちはこうして「原発大国」を選んだ』は、原発という社会的選択をした日本の歩みを総合的にとらえようとする野心作。東日本大震災を受けて書かれた増補版前書きに「原子力を拒否するにしても、その選択により社会的弱者にしわ寄せがいかないかどうかはきちんと検討する必要があります」と指摘するように、平板な原発推進でも反対でもない視点を提供する。(丹治吉順)
〈見るなら〉チャイナ・シンドローム
この映画をいま見せられた日本人は、誰でもいや応なく200%の理解度で共感できるだろう。
福島第一原発のニュースで見慣れてしまった沸騰水型の原子力発電の仕組みも映し出される。「原発はあらゆる事故を想定してつくられている」という電力会社の殺し文句も聞かされる。見終わると、臨界点を超えた理解はあらん限りの悪罵の言葉を思いつかせ、心がメルトダウンするはずだ。
米国ロサンゼルスのテレビ局が原発内部を取材中、異常振動とともに圧力容器の水位が下がるトラブルを目撃した。炉心溶融寸前の危機だったが、電力会社は真相を隠蔽(いんぺい)。原因の手抜き工事を見抜いた原発技師は命をかけた内部告発を決意するというストーリーだ。
1979年3月に全米公開された12日後、スリーマイル島の原発事故が起きたのだった。】