沖縄タイムスより
【 東京電力福島第1原発事故は依然、安定化の見通しが立たない。ふるさとを去った多くの人たちが理不尽な避難生活を強いられている。子どもたちは年間20ミリシーベルトを上限とする基準で学校生活を送っている。一般人の20倍に相当する。文科省は父母らの猛抗議を受け、年間1ミリシーベルトを目指すとしたが、上限の20ミリシーベルトは変えていない。将来、病気の発現を心配する悲痛な声を聞くのはいたたまれない。

 政府の国家戦略室がまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」素案は、原発推進の姿勢を堅持しているという。「世界最高水準の原子力安全を目指す」というから驚く。

 同戦略は原発事故を受け、国の「新成長戦略実現会議」が原発の輸出などを盛り込んでいた成長戦略を見直すのが目的である。

 政府はいまだ制御できず現在進行形の原発事故から何を学んでいるのだろうか。国際評価尺度で最悪の「レベル7」の事故を引き起こしながら、「原子力安全」と言っている。「安全神話」が粉々に打ち砕かれてしまったフクシマ以後、原子力と安全はイコールでなくなったはずだ。

 新たに設置する「エネルギー・環境会議」は、実現会議の下に置かれ、議長には玄葉光一郎国家戦略担当相が就任するなど官邸主導を印象づけようとしているが、実際は会議のメンバーを見ても分かるように経産省主導である。それではさもありなん。

 7月中に「中間整理」をまとめるが、政府内からも異論が出ている。当然である。

 菅直人首相は原発事故後、2020年までに9基、30年までに14基以上の原発を新増設することを盛り込んだ「エネルギー基本計画」を白紙で見直すと表明。中部電力浜岡原発(静岡県)を停止した。

 フランスで開かれた主要国(G8)首脳会議では20年代のできるだけ早い時期に太陽光などの再生可能エネルギーの総電力に占める割合を20%に拡大することを公約した。一見、エネルギー政策の転換のようにみえるが、原子力依存度には言及しなかった。いずれも議論の積み重ねの結果ではなく曖昧なのである。

 原発事故を深刻に受け止めているのはむしろ、欧州の国であるのは皮肉である。

 ドイツのメルケル首相は、22年までに17基全てを段階的に停止し、風力発電などの再生可能エネルギーを推進する方針である。首相は脱原発の理由を「フクシマの事故から学んだ」と端的に語った。

 スイスも34年までに脱原発、イタリアは原発再開の是非を問う国民投票を行う。確かに欧州では隣国から電力輸入できるという事情もある。

 ただ、日本は、エネルギー政策の根本的な見直しを迫られているはずである。民主党の最大支持母体の連合も原発の凍結を決定している。原発削減、再生可能エネルギーへ、が大きな流れだろう。

 政府の第三者機関「事故調査・検証委員会」の報告前に、結論ありきのように、素案をまとめているのも解せない。会議ではさまざまな立場の専門家の意見を聞き、全て開示する透明性が求められる。】

経済産業省の官僚たちは正気なのだろうか?