毎日新聞社説
『原発事故調設置 独立性確保し解明を』
【複数の原子炉が同時にメルトダウン(炉心溶融)した世界最悪レベルの原発事故はなぜ起きたのか。福島第1原発事故の原因究明をする第三者機関「事故調査・検証委員会」の設置が閣議で決まった。世界各国が注目する中での検証作業となる。

 東京電力や行政機関のみならず、事故発生時の官邸など政治サイドの初動態勢も問われる。仙谷由人官房副長官は「首相も含めた閣僚の行動も聖域なく対象にし、なれ合いとの疑念を抱かれてはならない」と述べた。当然の認識だ。

 関係者がヒアリングに応じなければ調査は進まない。枝野幸男官房長官は「政府関係者は閣議決定に従う義務がある。対応しなければ懲戒の対象になり得る」と説明した。

 だが、独立性や強力な権限を法律で担保する仕組みが必要だったとの指摘もある。主要8カ国首脳会議を前に見切り発車した感は否めない。

 調査に当たっては、目的と範囲を明確にすることが重要だ。

 津波によって冷却機能が喪失したとしても、なぜ1、2、3号機の相次ぐメルトダウンにまで至ったのか。「人災」の要因も徹底的に洗い出し、さらに検証して事故防止につなげるのが最大の任務だ。

 委員長には、「失敗学」を研究する畑村洋太郎東大名誉教授が就いた。畑村氏は、JR福知山線脱線事故の調査に携わった経験がある。

 鉄道や航空機などの事故調査では、個人の責任追及が優先しすぎると、関係者が口をつぐみ、真相解明の妨げになる。また、大規模事故の多くは、複数のミスが重なり起きる。予断を持たずに調査し、複合的な要因を解きほぐすのが調査の基本だ。

 福島第1原発の事故も同様だろう。畑村氏には、過去の事故調査の経験も生かしてもらいたい。

 東電は「地震による主要機器の損傷はなかった」と分析しているが、本当に「想定外」の津波だけが原因なのか。原因のいかんによらず、重大事故が起きた際の危機対応に不備がなかったか。津波対策の軽視を含めて真相を明らかにしてほしい。

 安全審査や規制の仕組みなど国側の体制上の問題点について、自民党政権下の原子力政策にまでさかのぼって検証することも求められる。

 また、この検証は日本への信頼を回復する大切な機会だ。情報は公開し、国際社会と共有しなければならない。外国人の専門家にかかわってもらうことも検討すべきだろう。

 事故直後の混乱の中で、政府内の会議録が残されていないことが表面化した。時間がたてばさらに記憶は薄れる。調査委は、年内に中間報告をまとめるとしているが、さらなるスピードアップを求めたい。】