恐ろしいことに気づいた。
今日私は飯に行った。いつもなら一人で行くところだが、なんだか妙に人を誘いたい気分になっていたから海外から来た技能実習生の人間を誘った。
彼と馬が合うかと言われればわからないが、ワーキャー騒ぐような感じではなく意外に落ち着いた気質を持っていて、前に自分の国の情勢だったりを話してくれたことがあった。
海外から単身出稼ぎに来ているから日本の友人として飯くらい誘ってやろうという気持ちもあったし、正直に言えば「どうせ家に居て暇してるから断られないだろう」という打算の考えもあった。もう一つ言えば私はこの数日前に年上の人にご飯を奢って貰った。だから次に自分が奢りたいという変な欲求を抱いていたのだ。
そして飯に行った。
何が食べたい?と聞くが、なんでもよいというからどうせ肉は食べるだろうと思い肉はどうだと尋ねるとやはり肉だった。
焼肉屋に着いた。休日の夜だというのに客が一人もいなかった。店員に案内されて席についた。ここでひとつ私はなにか良くない感情の気配というか、そういったものを自身の心に感じた。
その理屈はこうだ。私は身長が低い。彼も身長が低い。私たちは二人並ぶとまるで子供のような二人組であった。私は急にそんなことが気になって、自分たちがあの若い女の店員にどう思われているか、奥で笑われてやしないかと考えはじめたのだ。いや、考えたというより反射的にそういう風なことが頭をよぎった。
私のこの妙な心配は初めてのことであった。なぜならこれまで自分と同じくらい背丈の人間と並んで歩くことが無かったからだ。一人でいる時はただの人間であるが二人並ぶと急に珍妙なコンビのように思えてくる。そして私はこれまで一緒に歩く人間にこんな気持ちを持たせていたのかと感じた。いや誰も気にしてやいないのかもしれないし、実際のところはわからないけれども。
そして同時に、この妙なざわめきの始まりの理由、つまり根底の部分に恐ろしいものがあるのに気がついた。
私は技能実習生の彼と食卓を囲みながら、自分は彼とは違う、同じに思われたくない、そんな考えを持っていたのだ。
なんなら彼と二人で食事に来ることで、「友人のいないから立場の弱い海外人を捕まえてつるんでいるみじめな人間」だなんて思われてやしないかとも考えた。私の根底にまさにそういった考えがあったのだ。それが持前の自意識過剰と、被害妄想とが結びついてそういう感情を自分に抱かせたのだ。
飯を食べ終わって店を出た。車に乗り込んだ。
奢ってやると言っているのに彼は言うことを聞かなかった。
私の持っていた領収書を奪ってわざわざ電卓を出して計算を始めた。
しかし、細かい札を持ってなかったようで五千円札を出した。私はそれを受け取って三千円返して「これで割り勘だ」と言った。実際は千円多く返していたが彼にとって慣れない日本のお金でそんな計算はできないだろうと思い誤魔化した。
10分走って彼の家の前に着いた。車を停めた。すると彼はまた財布を取り出した。さっき貰ったのは三千円だからとまた計算を始めた。最終的なことを言えば彼は最後の十円まできっちり分けて半分払った。
彼があまりにも強情だったから渋々金を受け取った。
私は意味がわからなかった。
海外人でも私が金持ちで裕福なことくらい感じとれるだろうに。まさかそれすらもわからなかったのかと、一瞬よぎったがすぐにそうではないとわかった。わかっていた。