徳島は台風がしょっちゅう通過する。鹿児島や高知、和歌山みたいに最初に上陸する訳ではないからあまり印象はないかも知れないが高知に上陸したら殆どの台風は徳島を通過してゆく。そして、四国山地は意外と台風の勢力を弱めてくれない。だからこそ、江戸の時代には四国三郎(本来は四国次郎だったのだが、いつしか筑紫と入れ替わってしまったらしい)が氾濫しまくった。その代わり、肥沃な土地を作るに到ったのだから文明と天災は常に表裏一体だったのだろう。

私が徳島に来てから10年は「普通」の台風は何回も来た。慣れているから、無駄に外出もしないし被害もあるにはあるが甚大なものではなかった。ところが、2000年くらいから異常気象(いや、むしろ現在はこちらが標準気象なのだろうが)が多くなり、2004年には徳島でも町が水に浸かるような被害が増えてきた。それからというもの、台風で休講措置を取ることも増えてしまった。だが校舎の責任者としてはたとえ休講であったとしても校舎には入らねばならない。私は長いこと阿南の責任者であったので鳴門から南に向かって走ってゆく。その際、暢気にCDなんぞをかけるわけにはゆかぬ。ラジオで常にJRの情報や通行止めの情報を地元の放送から得なければならない。確か9月の20日だ。阿南に行っていたのはその当時火曜日で、必ず行きにはどこかしらラーメン屋でラーメンを食って出勤していたが、当時の手帳には店の名が書かれていない。私は飲食をした店は必ず記入しているので、この日だろう。台風がかなり強烈だったのだが、四国放送では情報がなかった。そこで、地元のコミュニティFMである、B-FMかける。教え子のユニット紹介で2回ほど出演させていただいたこともあり、馴染みもあった。しかし。ここも台風情報はしていなかった…が、気になる女性アーティストが出演していた。ジャズのような、ゴスペルのような曲。そして、印象に残る声。CDが欲しいのだが、どうやら市販はしていないらしい。ところが、そのアーティストは「ROTY」という呑み屋で手伝っているらしく、そこにCDを置いているという。当時、金曜日だけは20時に仕事を上がれたので、早速店に行く。残念ながらそのアーティストはいなかったが、CDはママさんから購入する。いついついる、と聞き、その日のランチに訪れ、初めて出会ったアーティストさんは、私の一つ上の方で、旦那さんの転勤で徳島にいるのだという。そこで、私が主催していたライブに出演依頼をし、快諾していただいた。

翌年の1月、ライブハウスで聴いた彼女の歌は絶品だった。旦那さんがベースを弾き、2人でのユニットだった。あれから13年、当然今では徳島にいない。私も音楽の世界から遠ざかり、ついには連絡を取れなくなってしまった。メールアドレス、今もキープしている人のなんと少ないこと。どうせ、LINE IDも近い将来使えないものになるのだろうな。そんなことを思いながら彼女の震えるような声を思い出す。


「あかつき」 FRIDA