水泳のコーチを辞めたのは1994年秋。翌年の1月から現職に転じる。精神的な疲労と肉体的な疲労のバランスが取れない上に、当時の勤務時間帯が以前とは全く違っており、自分をコントロールすることがなかなかできなかった。なんせ、出勤は13時なのに、帰宅は朝の4時~5時。今ならブラックを通り越して、訴えられるような環境だった。時折、帰宅が早いと朝の2時、3時に眠るわけにもいかず、実際眠れず、テレビを観るしかなくなる。その頃だろうか、深夜放送の地上波が朝まで拡大されたのは。だが、ケーブルテレビを入れていたことで、音楽専門番組とか映画専門番組も視聴者を増やしたかったのか、やたらと無料で観られた。映画やドラマはじっくりと観ないといけないが、音楽番組だと、ひたすら朝までミュージックビデオを流しているだけの日が多かったので、ぼんやりすることができた。


そうして時折好きな曲を見つける。身体を休ませなくても大丈夫な職種、そして、若さが毎晩徹夜をすることに繋がった。朝も6時に寝れば3~4時間寝たら充分だった。


ただ、夜中のアンニュイさを打ち破るほど明るい歌や、明るい映像には辟易した。

おいおい、夜中やぞ。なんで、こんなにはしゃいでるんだ…。まさか、アーティストの方も夜中に観られるなんて思ってはいないのだから、こんな愚痴をかます視聴者がいること自体が迷惑な話だろう。


そんな中、イントロとともに、めちゃくちゃ明るい青空と広い海をバックに岬の上で絶叫している歌に出会う。映像の明るさとは裏腹、歌は切迫するようなハスキーな声、表情はまさしくアンニュイ。でも、カッコいい。


何回も繰り返し映像を観るうちに、この曲は身体に滲み込んできた。何かに追われるかのようにCDを買いに行く。


あの、めミュージックビデオの空は、今まで見たどの空よりも切ない青を携えていた。


「地平線」 鈴木彩子