コンポを買った大学2年、二十歳の夏。それまでは下の階にいたオオモトの部屋で聴かせてもらうしかなかったので、持っていたCDは数えるほど。だから、コンポ購入と同時にCD購買意欲が一気に加速する。その年の終わりまでに20枚くらいを手に入れた。


元々日本のアーティストが好きな私。やはり、曲に加えて歌詞を噛み締めたくて、日本語の世界に感情移入しながら頭の中で作り上げるイメージに没入したかったのだ。とはいえ、何回か洋楽を好んだ時期もある。最初は高校1年の秋から冬。修学旅行をきっかけに同じ部屋の連中がかけていた洋楽をいろいろレクチャーしてもらい、MTVを夜中に観始めたのだ。アメリカンロックよりは、いわゆるブリティッシュを好み、少しずつ落ち着いて、また日本のアーティストに戻る。そして、高校3年の夏、一瞬だが、また聴いた時期もあった。暗めの曲が好きな私にうってつけの曲もたまにはあるものだ。というか、1人のアーティストだけだが。


その高校3年の頃好きだったアーティストがアルバムを出していた。イトーヨーカ堂の中にあった新星堂に、それこそ高校3年の思い出を買いに行ったのだ。だが、目当てのきアルバムは1枚だけしか置いておらず、あとは新しいアルバムがずらーっと並んでいた。そこで、2枚とも買った。新しいアルバムには、それこそ世界的にヒットし、今でもメディアでちょいちょいBGMなんかで使われる曲が収録されており、おそらく多くの人が今でも口ずさめるサビのフレーズがタイトルになっていることで有名なのだが、気に入った曲は違った。


メロディは短調で、しかも、アップテンポ。リピートして聴いていると、悲劇のヒーローになったかの錯覚に陥ってしまうような曲だった。まだ、秋口は涼しかった昭和最後の夏。クーラーなんかありゃしないから、扇風機、窓全開がお約束だった貧乏田舎学生は、暮れゆく東京の夏の名残を感じながら涙を流した。何が悲しいわけでもなく。


そのCDも、今はどこかへいってしまった。お気に入りほど、人に貸してしまう。聴かせたいからだ。配信は便利だが、あの、アルバムを取り出しドキドキしながら曲をかけ、歌詞カードを眺める、あの行程こそ想い出。


「straight to my heart」 Sting