大学入学後、初の「帰省」はバイト三昧。高知の夏を忙しく過ごす。夜の、スナック「でこぼこ」でのバイトは、私にも友人たちにも、そして、親にもいろいろ便利だった。要するに、高知に家のない私への連絡場所はこの店だったのだ。バイトをしていようがいるまいが、夜はこの店にいた。昼飯は「PATIO」という喫茶店で日替わりランチ550円。夜はどこかで軽く飲みながらツマミをちょいと。そして、冷房のガンガン効いているでこぼこ。すると、帰省した連中が一杯引っかけたり直接来たり、普段は両親くらいの年齢層の店だったのに、この時期は金のない若者たちの集合場所となった。だが、皆が一斉に帰省するわけでもなく、時間差で帰省したり、また戻ったり。それでも7月末には多くの友人たちが揃う。キラが東京から帰省してきた日、10人くらいで朝5時くらいまででこぼこで歌いまくっていた。店を出て、24時間のコンビニやファミレスもなかった高知の朝。まなぶの実家から道を渡ったところにある追手前公園のベンチ(公園自体が整備されておらず汚かった…)に皆で横になったり座ったりして、ただグダグダしていた。6時半になれば早めに開く喫茶店でモーニングでも食うつもりだった。たぶん、スイミングが休みの日だったのだろう。


帰省したばかりのキラが疲れて寝ていた。他の連中はとりとめもなく喋っていた。何が面白いのかわからん話を、ただとりとめもなく。

ふと、キラが目を覚ます。そして。いきなり踊りながら「そそってそそられて…♪」と歌い出す。洋楽オンリー、しかも、ちょいとマニアックな趣味だったキラがそんな歌をいきなり?

びっくりした。


帰京して、レンタル屋にCDを探しに行く。キラの歌を聴き、なんか欲しくなったからだ。しかし、同じアーティストの違うアルバムが目に入る。ヒット曲どころかシングルカットもしているかどうかもわからなかった。が、借りて録音し、たちまちファンになる。アイドルかと思っていたのに、とんでもない。大人のアーティストだった。


携帯からスマホに替えて最初にダウンロードしたのは、このアルバムだ。『OVERSEA』というアルバムタイトルも、なんだかシティライフにぴったり…と八王子の下柚木在住のクセに思った。


中でも1曲目に掴まれる。


今でも、掴まれたまま。


「スニーク・アウェイ」 本田美奈子