昨秋フロリダ州ジュピターで開催された予選に出場した、スペイン代表のロースターを目にした時、率直に言って非常に驚きました。なぜなら、これまでヨーロッパ選手権などで赤・白・黄のユニフォームに袖を通し、戦ってきたメンバーからはまるで様変わりしていたからです。今までヨーロッパ野球を追いかけてきた俺でも「誰だこいつ!?」と感じる面々が多く、戸惑いを隠せなかったというのが正直なところです。
元々キューバ・ドミニカ・ベネズエラといった中南米諸国とのつながりが深く、従来の代表メンバーの中にもこうした「野球移民」たちが少なくなかったスペインの野球。そうした移民に依存する傾向は昨秋の予選、そして今回の本大会においてより一層強まりました。今回選ばれている選手たちは、そのほとんどがスペイン出身でもなければスペインリーグでもプレーはしていない、しかしスペインにルーツを持っているマイナーリーガーや独立リーガーがメインになっています。
投手陣の柱となるのは、予選ラウンドでもエース格だったニック・シューマッハ(スーシティ・エクスプローラーズ)と、ヨーロッパを代表する本格派左腕であるリカルド・ヘルナンデス(ベースボール・バルセロナ)の2人。2009年にディビシオン・デ・オナーで16勝1敗の大活躍を見せたレスリー・ナカー(プエルトクルーズ・マーリンズ)、兄ホセとともにメンバー入りしたライナー・クルーズ(アストロズ)、マイナー通算で奪三振率12.6を誇る対左のスペシャリスト、クリス・マンノ(レッズ)らがリリーフを務め、クローザーには唯一のスペイン出身投手であるエリック・ゴンザレス(レイクエリー・クラッシャーズ)、予選ラウンド決勝で胴上げ投手となったイバン・グラナドス(FA)の両者があてがわれると思われます。
注目株は予選ラウンドでは不参加で、今回初召集された21歳の有望株左腕、パコ・ロドリゲス(ドジャース)。2012年にドラフトされた全選手の中で、最も早くMLBの舞台にたどり着いた期待のルーキーです。昨季は9月にメジャーデビューすると、11試合登板で防御率1.35と活躍。通算86試合登板で防御率2.19をマークした大学時代から、一貫してリリーフで起用されていますが、代表では先発の一角を務める可能性もあり、その起用法に大いに注目したいところです。
投手陣の課題を1つ挙げるとするなら、今回選ばれている面々には四球癖を持つ者が多いことでしょうか。リリーフに回ると思われるセルジオ・ペレス(アストロズ)、リチャード・サラザー(スーシティ・エクスプローラーズ)といった顔ぶれは、奪三振も多いものの四球も非常に多く、所属先で必ずしも確固たる信頼を得られているというわけではありません。そうした傾向は、予選ラウンドにおいても非常に目立っていました。本大会ではドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコという格上を相手にすることになるため、四球で走者をためて不用意な一発を浴びるという展開になると、非常に厳しい戦いを強いられることになります。
一方の打線は、昨季レンジャース傘下AA級フリスコで36盗塁を記録したエンゲル・ベルトレ、ヨーロッパ選手権や2009年W杯で快足を武器に活躍した、ダニエル・フィゲロア(FA)らの機動力を武器に、積極的に走者を進めていく攻撃スタイルが持ち味。主軸には予選ラウンドでも4番に座ったキューバ出身の大砲で、現在はメキシカンリーグでプレーしているバルバロ・カニサレス(オアハカ・ウォリアーズ)、予選で打率.500、出塁率.647、長打率.667と大爆発したゲーブ・スアレス(レンジャース)らがあてがわれる見込みです。
1次ラウンドで対戦する3強と比較すると、どうしても一発の恐怖感という意味では劣ってしまう印象があるスペイン打線ですが、スピードを武器にかきまわすという面においては決して負けているわけではありません。チームを率いるイタリア人のマウロ・マゾッティ監督は、昨秋のヨーロッパ選手権でスペインを3位に導いた名将。その時とは大幅にメンバーが入れ替わったWBC予選でも、しっかりと結果を残してみせました。個々の力では太刀打ちできなくても、チーム全員で束になって相手投手に襲い掛かり、総合力でマウンドから引きずり下ろす。そういった野球で結果を残してきたマゾッティ氏率いるチームが、この大会でもその戦い方を完徹できれば、前回大会でのオランダに続く「サンファンの奇跡」が、再び起きる可能性は0とは言えません。
冒頭でも述べたとおり、スペイン出身者が揃っているわけでも、スペインリーグでプレーする選手が中心になっているわけでもない今回のスペイン代表に、疑問を呈する向きはおそらく少なくないと思います。俺自身、個人的には今まで代表チームでプレーしてきた面々を中心にしてほしいと思っていましたし、その意味では100%感情移入できるわけではないのも事実です。しかし、予選で優勝したチームのメンバーたちが、スペイン国旗を振り回して大はしゃぎしていたように、彼らにも彼らなりの理由があってスペイン代表に参加しているのも、これまた間違いないこと。彼らがWBC本大会という舞台で勝ち進むことで、それを目にしたスペインの選手たちが刺激を受けるなど、何かしら還元できるものがあるのなら、今回のチームの戦いにも少なからず意義はあると言えるのではないでしょうか。
投手
・リチャード・カスティーヨ(セントルイス・カージナルス)
・ホセ・エステバン・クルーズ(ロディ・オールドラッグス)
・ライナー・クルーズ(ヒューストン・アストロズ)
・エリック・ゴンザレス(レイクエリー・クラッシャーズ)
・イバン・グラナドス(FA)
・リカルド・ヘルナンデス(ベースボール・バルセロナ)
・クリス・マンノ(シンシナティ・レッズ)
・エディ・モーラン(サザンメリーランド・ブルークラブス)
・レスリー・ナカー(プエルトクルーズ・マーリンズ)
・ヨアナー・ネグリン(タバスコ・キャトルメン)
・アントニオ・ノゲイラ(ノヴァ―ラ・ユナイテッド)
・セルジオ・ペレス(ヒューストン・アストロズ)
・パコ・ロドリゲス(ロサンゼルス・ドジャース)
・リチャード・サラザー(スーシティ・エクスプローラーズ)
・ニック・シューマッハ(スーシティ・エクスプローラーズ)
捕手
・サロモン・マンリケス(リンカーン・ソルトドッグス)
・エイドリアン・ニエト(ワシントン・ナショナルズ)
・ブレイク・オチョア(バレンシア・アストロズ)
内野手
・バルバロ・カニサレス(オアハカ・ウォリアーズ)
・パコ・フィゲロア(サザンメリーランド・ブルークラブス)
・ヘスス・ゴリンダーノ(ベースボール・バルセロナ)
・へスス・メルチャン(サンディエゴ・パドレス)
・ネスター・ぺレス(ベースボール・バルセロナ)
・ユニエスキー・サンチェス(ラレド・ブロンコス)
外野手
・ゲーブ・スアレス(テキサス・レンジャース)
・エンゲル・ベルトレ(テキサス・レンジャース)
・ダニエル・フィゲロア(FA)
・ヤセル・ゴメス(マッカレン・サンダー)
・ラファエル・アルバレス(リンカーン・ソルトドッグス)
ソース:http://web.worldbaseballclassic.com/wbc/2013/teams/index.jsp?team=esp&team_id=920