「助っ人」ゆえの矛盾 | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 いよいよ開幕した、2013年WBCの予選ラウンド。アメリカ・フロリダ州ジュピターでは、今回初参戦となったイスラエルが、過去2度本大会に出場している南アフリカを7‐3で撃破し、白星スタートを決めている。現地時間の今日からは、ドイツ・レーゲンスブルグでもイギリス‐カナダ戦が始まることもあり、早くも国際野球ファンたちはWBCモードに突入している様子だ。


 ところで今回の大会開催にあたって、一部のファン(といっても、その数は決して少なくはないはずだ)の間からは、今大会に出場しているチームの編成に関して、疑問を呈する声が上がっている。すなわち、「仮にも国家代表を謳いながら、出場している選手のほとんどが外国出身という状況は、いかがなものか」というものだ。


 例えば、今日フランスとの初戦を戦うスペインは、やり玉に挙げられる典型例と言っていいだろう。エース左腕のリカルド・ヘルナンデス(ベネズエラ出身)をはじめ、今回の代表選手はほとんどが、キューバやベネズエラといった中南米諸国からわたってきた野球移民だ。純粋なスペイン産選手といえるのは、前エースのマニュエル・オリベイラ(バルセロナ生まれ)と、純スペイン産選手では最高の選手といわれる、エリック・ゴンザレス(テネリフェ島生まれ)の2人くらい。同じスペイン語圏出身の選手たちとはいえ、果たして彼らが「エスパーニャ」のユニフォームに、袖を通すのにふさわしいのかと聞かれると、確かに首を傾げたくなる部分もある。


 冒頭で挙げたイスラエルに至っては、その歪さはさらに極端だ。今回、イスラエルの代表ロースターに名を連ねている面々は、そのほぼすべてがAAA級やAA級でプレーしている、ユダヤ系アメリカ人選手たち。純粋なイスラエル人といえるのは、シュロモ・リペッツ(元ネタニヤ・タイガース)、アロン・レイクマン(サイプレス大)、ダン・ローセム(元テルアビブ・ライトニング)の3投手だけだ。


 もちろん、代表の主力となっているユダヤ系選手たちに関しては、その実力は申し分ない。開幕戦で3番を任されたネイト・フレイマン(パドレス)などは、今季AA級で打率.298、24本塁打、105打点をマークしている強打者。仮にイスラエルが予選を勝ち抜けば、現在本塁打と打点でナ・リーグ首位を快走している、ライアン・ブラウン(ブルワーズ、9月19日現在打率.314、40本塁打、104打点)なども加わる可能性がある。ケビン・ユーキリス(ホワイトソックス)のように、既に条件付きでの参戦を明言している大物もいる。彼らがイスラエルにとって大きな力になれることは、間違いないだろう。


 しかし、これほどまでにアメリカナイズされたイスラエル代表の姿は、当初から一部で危惧されていたように、本来あるべきイスラエル代表チームの姿からは、かけ離れたものになってしまっている。そもそも、「ユーロで5位に入った(2010年大会当時)うちが、なぜ出られないんだ」と、連盟会長自らキレたスウェーデンを差し置いてまで、ユーロ予選レベルでもほとんど実績のないイスラエルを呼んだのは、彼らに「中東代表」としての役割を託したからであるはず。まして、ブラウンやユーキリスは前回、アメリカ代表として本大会に出場している。これでは、一部の心無い勢力から「WBCなんて、所詮アメリカ人による代表戦ごっこだろ」と揶揄されても仕方がない。


 これは「世界の野球」管理人さんの受け売りになってしまうけど、今回のイスラエル代表はイスラエルという国の代表ではなく、ユダヤ教という宗教の代表になってしまっている気がする。そもそも他の「〇〇系」とは違い、ユダヤ系というのは人種のことを指すわけではないしね。果たしてそういうチームが、「国別対抗戦」に出ることがふさわしいと言えるのか。「奴らが代表しているのは、United $tate$ of I$raelだ」と、野球ファンからすら強烈に皮肉られる彼らが、WBCという大会の理念に沿った存在だとはあまり思えないんだ。


 俺はこれまで、「本国出身の選手と同様、移民組にも彼らなりに代表ユニフォームを背負う理由があり、それを安易に否定することはすべきでない」という考え方を貫いてきた。だからこそ、スペイン代表の大半がベネズエラ人やキューバ人だろうが、ユーキリスがイスラエル代表入りを明言しようが、これまではあまり否定的な見方をしてこなかった。ただ、今回のようにあまりにも歪な形がまかり通ってしまうようでは、正直自分の立場や考え方も揺らいでしまう。かといって、彼らのやり方を100%否定できるわけではないことも事実。なぜなら、彼らにはそうせざるを得ない理由があるからだ。


 イスラエルの場合、確かに今回の大会での目的は金なんだけど、それが関係者個々人の私腹を肥やすためかといわれると、実は案外そういうわけでもない。彼らが多くの経済的利益を得たい理由は、イスラエル野球連盟(IAB)が首都テルアビブに建設を予定している、大規模なベースボールコンプレックスの資金とするため。今回選ばれた代表メンバーのうち、実質的にその恩恵にあやかれるのは、実はおそらくリペッツ、レイクマン、ローセムの3人だけ。この施設が主な対象としているのは、国内に約3000人いるとされる、純イスラエル産プレーヤーたちなんだ。


 自国の野球振興のためには、大規模な施設の建造が必要であり、そのためには多くの資金を集めなければならない。でも、国際舞台で何の実績もない「中東代表」では、野球界で最高峰の大会において満足な成績は残せないだろうし、彼らが建設資金を十分に運んできてくれるとも思えない。ならば、イスラエル本国の国籍法と、WBCの緩い国籍条項の抜け穴とを利用して、実力十分のユダヤ系選手でチームを固めてしまおう。IABがそのように考えたであろうことは、容易に想像がつく。国内の選手を置き去りにしているのかと思いきや、実は国内の選手たちの将来に向けた投資のために、こうした強引にも見える選手選考を敢行したというわけだ。


 今回のケースではどちらにも一定の理があり、しかもそれがまるで正反対の関係にあるために、非常にややこしく難しい問題になっている。これに関しては、俺自身はどちらの考えも、ある一定のレベルで理解できるだけに、はっきりとどちらがいい悪いとは言いづらい。これまで自分が「野球移民」という物に対してとってきたスタンスもあるし、簡単に自分の中で結論を出すことはできないだろう。


 ただ、確信を持って言えることが1つある。それは、たとえ今のイスラエルやスペインの編成がどうであれ、将来的には野球移民や助っ人への、過剰な依存からは抜け出すべきだということ。ようやく野球界が国際化に向けて動き出した今の状況で、そうした勢力に頼らざるを得ない状況があるのは仕方がない。たとえ、彼らのような選手が未来においてなお存在していたとしても、それを100%排除する必要性も別にないだろう。しかし国家代表である以上は、選手の供給のベースはあくまでもそれぞれの国にあるべきだ。それを忘れたら、WBCはいつまでも「世界一決定戦」として進歩していかない。果たして、未来の国際球界は今一部で存在する歪さを、一定のレベルで解消することはできるのか。そのカギを握るのは、今の野球界自身であるのは間違いないだろう。