南米は「球界の第4極」になれるか? | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 最近、俺はアメブロ版のブログにおいて、細かいながらもある変更を行った。具体的には、これまで「カリブ野球」と「ラテンアメリカ野球」という、2つのカテゴリーに分かれていた記事を、全て「ラテンアメリカ野球」に統合。「カリブ野球」のカテゴリーを廃止したんだ。ラテンアメリカ関連の記事が、アルゼンチン関係の1つしかなかったこともあって、わざわざ分ける意味を感じなくなったというのがその理由(中米も南米も、同じラテンアメリカに変わりはないしね)。勘のいい人なら、アメブロ版ブログの左下に列挙されているカテゴリー欄を見て、すぐに気がついたかもしれない。

 残念ながら、ヨーロッパと比べるとやや専門外ということもあって、なかなか取り上げる機会がないラテンアメリカの野球。この地域は、国によっては大リーガーも山ほど輩出している野球狂の国だらけだし、あまり自分が積極的に取り上げる理由もないかな、というのも、率直に言ってあった。しかしながら、昨年アルゼンチンで行われた南米選手権をきっかけに、特にベネズエラ以外の南米地域における野球事情に、少しずつ興味が出てきたのも事実だ。

 現在、暇さえあればちょくちょく遊んでいる、「OOTP(Out of the Park Baseball)」という球団経営シミュレーションゲーム(以前にもこのブログで紹介したことがあったけど、当時はあまりうまくプレーできなかったこともあって、のちにエントリ自体を消してしまった)でも、アルゼンチン・ブラジル・ベネズエラを中心として、頻繁に選手が登場してくる南米諸国。俺はこのブログでたびたび「ヨーロッパに、日米に次ぐ野球の第3王朝になって欲しい」と書いているけれど、今回はこの南米諸国が、果たして「国際野球界の第4極」になれる可能性があるのかどうか、考えてみたい。

 南米と野球といえば、やはり一番有名なのはなんといってもベネズエラだろう。現在の南米地域においては、唯一といえる「野球が国民的なレベルで、身近に存在する国」。ヨハン・サンタナ(メッツ)、フランシスコ・ロドリゲス(ブルワーズ)、フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)といった好投手を数多く輩出する、世界屈指の野球強豪国だ。もちろん、過去2回のWBCにも優勝候補として参加しており、2009年には準決勝で韓国に敗れたものの、ベスト4という好成績を収めてみせた。

 そんなベネズエラと比べれば、他の南米諸国はどちらかといえば「サッカーの国」という印象が、一般的には強いはずだ。ただ、それだけを以て「南米で野球をやっているのはベネズエラだけ」と断定するのは大間違い。昨年の南米選手権は、開催国アルゼンチン以下、エクアドル、ブラジル、チリ、ペルー、ボリビアという顔ぶれで行われた(最終順位もこの通り)。これらの国のうち、アルゼンチン、エクアドル、ブラジルはマイナーリーガーを輩出した経験も持っている。アルゼンチンとブラジルの両国は、今秋に行われるWBC予選においても、文字通り最後の最後まで招待国の最有力候補とされていた(結局、南米からはブラジルとコロンビアが選出)。

 南米勢はあまり国際大会に顔を出してこない(理由は後述)ことから、それほど実力に関しては広く知られていないものの、前述の南米選手権は比較的戦力も拮抗しており、プレーのレベル自体は決して低くはなかった。フルメンバーを揃えられていたとは言えないものの、それでも優勝候補に挙げられていたブラジルが、エクアドルにまさかの2敗を喫して3位に終わるなど、特に上位3か国の間での実力が伯仲しており、競争も熾烈であることをうかがわせている。

 また、同大会で4位以下に終わった国々に関しても、調べてみると色々と興味深い事実が明らかになってくる。例えばチリは、特に北部においてはそれなりに盛んに野球をやっており、南米諸国の中では意外にも野球が文化として定着している。こちらのサイト(要アカウント)では、南米選手権に参加した時の映像や、チリ代表とサンティアゴ選抜(中南米には「サンティアゴ」という名の都市が山ほどあるので、具体的にどの国かは不明)で強化試合を行った際の映像などがみられる(http://ja.justin.tv/dguddat/videos)。ペルーやボリビアともども、まだマイナーリーガーを輩出できる水準にはないけれど、それでもこうした取り組みがちゃんと行われているというのは、国際野球ファンとしては非常に嬉しいことだ。

 ヨーロッパと違って南米が有利なのは、なんといってもスペイン語を話せる指導者を送り込みやすいという点だ。おおげさに言えば、国名と同じ数だけ言語が分かれている(もちろん例外はあるけど)、とすら言えるヨーロッパに対して、南米の場合はスペイン語さえ話せれば、どの国でもほぼ問題なく生活できる。これは南米諸国にとっても、キューバやドミニカ、プエルトリコといった強豪国が集中する中米地域から、優秀な指導者を受け入れやすいという利点になるんだ。事実、南米選手権で大躍進したエクアドル代表の監督は、キューバ人だったそうだ。

 もちろん、これは逆に「南米出身選手をMLB傘下に送り込む」ということに関しても、非常に有利に働く。ラテン系選手が非常に多い今のMLBにおいては、スペイン語は英語と並ぶ、第2の公用語と言っても過言ではないほど、非常に重要な位置を占めている(大リーグ30球団のウェブサイトにも、スペイン語バージョンが存在するほどだ)。南米出身者にとっても、これは慣れないアメリカでの環境に溶け込むうえで、大いに武器になるに違いない。唯一、ブラジルだけはポルトガル語だけど、元々ポルトガル語自体がスペイン語と似通った言葉だし、周りが皆スペイン語圏ということもあり、スペイン語への理解度も比較的高いそうだ(全くスペイン語を学んでいないブラジル人でも、スペイン語での日常会話は9割は理解できる、という話もあるらしい)。

 野球に話を戻そう。南米球界においては、これまでは日系人プレーヤーたちが、それぞれの国において主体的な立場をとっていた。実際、その点に関しては現在も大筋では変わっていない。ヤクルトがブラジルから、松元ユウイチを筆頭に数多くの日系人プレーヤーを発掘してきたのは周知のとおりだし、ペルーなどは野球文化の普及に日系人が大いに貢献したこともあり、代表チームには日系の選手がずらり。アルゼンチンにも「日亜学院」という日系人主体のチームがあり、フル代表にも何人かが参戦している。下の動画では、ブラジルの選手や指導者がインタビューを受けているが、登場するのは全て日系人だ。



 ただ、ここ最近は非日系の選手の中からも、期待できる選手が少なからず台頭してきている。例えば、ブラジルの主砲と目されるパウロ・オーランド(ロイヤルズ傘下)、アルゼンチンのエース右腕で、南米選手権優勝投手のフェデリコ・タンコ(レイズ傘下)などが、その典型として挙げられるだろう。12歳の時にアメリカに移住してから野球を始めたため、ブラジル球界が育てた選手ではないものの、ブルージェイズには初のブラジル人大リーガー、ヤン・ゴメスがいる。日本のファンにもう少し馴染み深い名を挙げるなら、やはりブラジルのミランダ・フェルナンデス(ヤクルト)か。彼らは皆、「従来の支柱としての存在だった日系人」と、「これまでになかった新しい才能としての非日系人」とが融合した、新しい南米球界のあり方を、ある意味では体現する存在だと言ってもいいんじゃないかな。

 とはいえ、もちろん南米球界においては、まだまだ課題も少なくない。その1つが、競技インフラの整備が遅れていることだ。俺自身は、Youtubeなどを通じてアルゼンチン、チリ、ブラジル、ペルーのスタジアムを見たけれど、いずれも施設のレベルは日米はもちろん、ヨーロッパと比べても大きく劣る印象だ。南米選手権の会場となった、アルゼンチンの「国立野球場」にしても、試合での熱気は文句なしに素晴らしいものの、施設自体は老朽化している部分も少なくなく、大風呂敷を広げた感もあるネーミングと比べると、やや寂しい感じがする。



 そして、もう1つの理由と言えるのが、現在の南米諸国があまり国際大会に顔を出してこないこと。と言うよりも構造的な問題から、南米諸国が出場したいと思える存在になっていない、と言った方が正確かもしれない。野球界においては、南北アメリカが1つの大陸として扱われているため、例えばメキシコで国際大会を開いた場合、まだ野球がプロとして発達していない南米勢は、遠征のために非常に重い負担を強いられる。そのうえ、実力的にも北中米勢とはまだ開きがあるので、現在の米大陸における大会は彼らにとって、「わざわざ高い金を払って、強豪国にフルボッコにされに行く場」でしかなくなっているんだ。

 ただ、施設の面はともかく、そうした国際大会の構造に関しては、少しずつながら現状を見直そうという考えが出てきている。南米では今、新たに「南米野球連盟」を立ち上げるという動きがあると聞く。これまでの「米大陸」から南米を事実上独立させ、南米勢独自の活動を増やすというのがその目的だろう。前述の南米選手権も、ある意味ではこうした現状からくる「国際大会の経験不足」を補うために存在するものだと言ってもいい。この流れは、「野球の在り方を、従来のように国内絶対主義にしばりつけない」という、今の国際化の流れにも合致している。

 無論、以前の記事でも書いた「本当の意味での国際化」を達成するまでには、まだこの地域には時間が必要だろう。まだまだ野球はメジャーな存在とは言い切れないし、ベネズエラ以外の国々に関しては、まだMLBにたどり着いた選手も数える程度しかいない(そもそも、マイナーリーガーを輩出できる国も多くはない)。どこの国を選んでも、一流レベルにある南米出身選手がたくさんいる、OOTPの世界が現実になることを期待するには、まだあまりにも早すぎる。

 でも、少なくとも南米球界が、前に進んでいることは事実であるはずだ。エクアドルは既に、格上であるコロンビアやキューバ相手に接戦を演じるなど、有望な存在になりつつある。ブラジルはWBC予選パナマラウンドにおいて、唯一大リーガー不在ながらも予選突破の可能性を秘めている。今回は召集されなかったアルゼンチンも、2017年WBCには参戦してくるだろう。南米大陸が、国際球界における第4極になれる可能性は、現時点では高いとまでは言い切れないものの、決して0ではない。そこに悲観的な評価を下すにも、これまた時期尚早にすぎると思うよ。