WBC選出で、国中大騒ぎになっている国があるらしい | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 昨日この記事でも取り上げた、2013年WBCの予選に参加する、新規参戦国12カ国。日本の国際野球オタクの間でも、連日にわたって議論が繰り広げられ「この国は予想通り」「まぁ妥当な線だな」「えっ、何でそこ選んだの?」というように、いろいろと国ごとの見解が分かれたようだ。


 そんな中で、今回の予選参加決定をきっかけに、その国の野球界全体が大騒ぎになっている国がある。オセアニア地区第2の国、事前の予想からすると、むしろサプライズ選出ともいえるニュージーランドだ。


 隣国オーストラリアと同様、英連邦の一員であるニュージーランドには、昨年オフにカーティス・グランダーソン(ヤンキース)とマーク・メランコン(アストロズ)が、MLBの親善大使として訪れ、野球教室などを開いたという伏線があった。アメリカと同じ英語圏であるということもあって、MLBも普及の面で、かなり肩入れしていたらしい。また、男子ソフトボールで世界屈指の実力国であるという側面もある。もっとも、野球のナショナルチーム自体は目立った成績を残していないこともあって、選出国の予想ではむしろ、序列的には決して高くはなかった。それゆえ、彼らが選ばれたことには、俺自身も驚きを隠せなかった。


 だが一番衝撃を受けているのは、おそらく同国の野球関係者たちだろう。ニュージーランド野球連盟の会長、デビッド・ボーリンガー氏は、地元メディア「3news」の取材に対して「まるで月を飛び越えてしまうくらい、素晴らしい気分だ。かれこれ20年間野球に携わっているが、私の家族ははじめ、何で私がそんなに喜んでいるのか、理解できていなかったよ」と語っている。


 この3news以外にも、「stuff」「newstalkZB」といった地元メディアが、相次いでこのニュースを報道。Stuffの電子版ニュースのコメント欄では、野球とソフト双方の関係者やファンが熱い議論を展開した他、普段はそれほどツイート数が多くないはずの、ニュージーランド連盟のTwitterアカウントも、選出が決まるや否やWBCに関連したマシンガンツイートを開始した。まさに、一気にかの地の野球報道に火がついたんだ。


 何か物事が大きく前進するうえで、たった1つのきっかけが、それまでの状況を一気に変えることはよくある。ニュージーランドの場合、前述したような男子ソフトや、試合前に踊られる「ハカ」でおなじみの「オールブラックス」こと男子ラグビーに押され、これまで野球ではあまり目立った存在とはなっていなかった。しかし今回のWBC予選への参戦は、もしかしたらそうした過去の姿を、一変させるきっかけになるかもしれない。


 楽しみなデータもある。前掲の3newsによれば、ニュージーランド全体の野球人口は昨年1年間で、1200人から4000人にまで増加したんだそうだ。競技人口の総数自体はまだまだ小さいが、これは同国におけるサマースポーツの中では、あらゆる種目の中で断トツの伸びだったんだそうだ。そしてこの数字は、今回の報道過熱による注目度の増加で、さらに爆発的に増える可能性を秘めている。すでに比較的「ダイヤモンドスポーツ」への親和性が高く、これまでソフト一本でプレーしてきた選手たちも、野球も兼任することが考えられるからだ(実際ニュージーランド代表にも、アメリカのマイナーやカレッジでプレーする野球選手達に加え、ソフト代表チームの有力選手が多数召集されると見込まれている)。今回すぐには結果が出なかったとしても、近い将来にはオーストラリアと並び立つような存在になっている可能性もある。


 WBCはよく「メジャーリーガーが参加する世界一決定戦」として語られることが多い(一方で「国際オープン戦」とか「MLBの資金稼ぎの場」と揶揄する声もあり、まぁそれらもあながち間違ってはない)。ただ同時に、その使命として「野球の国際的普及や強化のきっかけづくり」があることも忘れちゃいけないと思う。それは、シニカルにWBCを捉えている人々の目からすれば、単なる建前にすぎないかもしれない。ただ、俺自身はそれでも別にいいと思っている。たとえMLBにとっては建前であっても、結果的にその国の野球が発展することがあれば、それ自体は何ら悪いことじゃないからだ。事実、ニュージーランドはこれだけ盛り上がってるじゃないか。これは、国際的な野球の発展を望む者からすれば、大いに喜ぶべきことだよ。


 日本やアメリカといった、いわゆる「野球先進国」の役割は、野球文化があまり根付いていない「野球後進(発展途上)国」が発展し、自立する手助けをすることだと、これまで何度かこのブログに書いた。今それは実際に、ニュージーランドの地で実現しようとしている。ニュージーランドだけじゃなく、これから他の国々でも、相次いで野球強化のための活発的なムーブメントが始まるだろう。こうしたきっかけをもとに、これまではあまり目立たなかった国々の野球熱が、次々に連鎖的に爆発を起こすのを、一野球ファンとして楽しみにしていたいと思う。