世界各地の美味しいものを食べ、おいしいお酒を飲み、楽しく暮らしていましたが、この頃は運動をするという習慣も、そんなことをしようという気持ちも全くありませんでした。
PCに向かう時間が長く慢性の肩こり、背中から首にかけてが鉄板のようにガチガチで、月に1度はひどい偏頭痛に悩まされ、ぎっくり腰も何度か。
鍼灸整骨院でも
このままだと、10年後まずいですよ
と言われる始末。
そんな時、父が突然倒れ、救急車で集中治療室に運ばれました。大動脈の病気でした。
(幸い一命は取りとめ、現在は元気です)
体質の似ている私が、このまま運動もせずに仕事ばかりして、お酒を飲んで暮らしていたら、きっと何年か後には同じ道を歩む。
と思い、近所のフィットネスクラブに入会しました。
ちょうど職場でもゴタゴタがあり、ずっと一緒に頑張ってきた人たちが一気に辞めてしまい、仕事以外の世界にも目を向けないとバランスが悪いと考え始めていた時でした。
フィットネスクラブでは、さまざまなスタジオプログラムにトライしました。
中でも楽しかったのがボクササイズや、格闘技の型を取りこんだエクササイズ。ずっと眠っていた『あしたのジョー』スピリットが呼びさまされました。
そのクラブには、当時、全日本武術太極拳連盟の強化選手(日本代表)だったHさんがスタッフとして働いていて、ちょうど私が入会した頃に店内でカンフーサークルがスタートしました。
映画好きで、格闘系の動きにテンションの上がる私は、迷わずそのサークルに参加表明。
とはいえ、カンフーがどんなものか知っていたわけではありません。
イメージにあるのは、ジェット・リーの『少林寺』や、ジャッキー・チェンの『酔拳』だけ。
それでもやり始めると本当に楽しくて、すっかりハマってしまいました。
カンフーのレッスンでは、とにかく柔軟性アップということで、ストレッチをしっかりします。元々そんなに柔らかかったわけではないので、毎日お風呂上りに家でもストレッチをして、少しずつ少しずつ伸ばしていきました。
同時に、カンフー映画も片っ端から借りてきて観まくり、あやしげな中国武術の本を買って読みまくりました。
そんなことをしながら、Hさんが出場する大会も何度も見に行き、実際にトップ選手の演武を目にしました。
アスリートの人たちのストイックな生活に驚き、その精神力の強さに次第に魅了されていきました。
そして1年後、Hさんのコーチをしていた今の老師を紹介してもらい、そちらでも本格的にカンフーを習い始めることになりました。
そのカンフー老師は、中国河南省出身の女性で元世界チャンピオンです。太極拳の老師は日本人の男性ですが、やはり元世界チャンピオン。
オリンピックでも金メダルは特別です。
オリンピックや世界選手権に出るようなアスリートは、実力的には拮抗しています。
その中で1番になれる人、金メダルを取れる人というのは、他の人とは違う何かを持っているのです。
私はスポーツには全く興味がなかったですし、金メダルというものが「すごい」とは思っても、特別にその栄光にひれ伏すというような気持ちはありませんでした。
けれどこのお2人に武術を習いながら、考え方、取り組む姿勢などを知るうちに、自身に対する厳しさと信頼、常に向上を目指す気持ちなど、やはり金メダリストになるにはそれなりの理由があるのだと実感しました。
いつも敵は他人ではなく、自分自身の弱さ。
それに打ち勝つこと。
その根拠となるものは、毎日毎日の小さな行動の積み重ねです。
自分のやってきたことが結果を生み、自信となる。
その繰り返しです。
こうして素晴らしい師にも出会い、気がつけば自分も大会に出たり、人前で演武をするようになっていました。
柔軟性、バランス、昨日の私よりも少しでも成長したい。
その一心で、カンフーの練習と並行して、さまざまなボディワークに取り組みました。
ストレッチ、ヨガ、ピラティス、調整体操、自力整体、ロルフィングエクササイズ、骨盤エクササイズ、各種ダンスなどなど。
持ち前の熱心さと集中力、持続力で、研究を重ねました。
運動が不得意だったからこそ、最初から身体が柔らかくなかったからこそ、一つ一つできなかったことができるようになるプロセスを喜びとして感じられます。
そして鉄板だった背中は動くようになり、腰痛も起こらなくなり、偏頭痛ともお別れできました。
印象的だったことがあります。
ヨガの練習をしていて、胸椎のあたりが動き始めて胸を開くことができるようになったとき、猫が毛玉を吐くように何かを吐き出す夢を見ました。
それは自分の心の中に詰まっていた古い感情だったのかもしれません。ちょうどハートのチャクラ
のあたりです。
そこからは猫背が治り、姿勢も良くなり、同時にやさしい気持ちに満たされていくようになりました。
心と身体はつながっているというけれど、まさしくそれを実感した瞬間です。
心が頑なになっている人も、こうやって身体からのアプローチで開いていくことができるのか、とその時知りました。
また、カンフーを始めてから、イライラすることがなくなりました。周りからも変わったと言われます。
敵を想定した動きでストレスが解消されるせいかと思っていましたが、どうもそれだけではないようです。
身体のあらゆる部分をバランスよくストレッチすること、自分の身体、そして内面にも向き合っていくこと、そういう地味な毎日の積み重ねが、身体だけではなく心にもぶれない軸を作ってきたのでしょう。
相手がどう、周りがどう、環境がどう、という前に、自分が動く。
小さくても良いから、1つ行動をする。
考えたことではなく、行動したことが結果を生む。
不満があるのなら、何かを変えたいのなら、自らが行動をする。
努力は人を裏切らない。
そう教えられた武術スピリットは、私の中で確実に育っていきました。
(つづく) 次章
