小説~ONESTAR~9「ナツキの正体」 | COCONUT☆HEADBUTT!!

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ONESTAR9


この間と同じように駅で待ち合わせした俺達は、黙々とリストランテアップルに向かって歩いた。

交わした会話と言えば、

「あんた、弟だってバラしたでしょ。」

「うん。」

の二言だけだった。


ねーちゃんは、いつものジーンズにTシャツと言うスタイルで、

恋敵に会うにしては張り合う気なんて全然ない格好だった。


俺の半歩前でポニーテールが揺れ、ねーちゃんは黙ってただ歩いて行く。

ねーちゃんはきっとまた完璧に演じて見せるのだろう。

帰ってきた店長の彼女に笑顔で「お帰りなさい。」と言い、

その笑顔のまま店長に「良かったですね。」と言うのだ。

それからかわいい女の子をひたすら演じて食事をして、店を出て、

「今日はありがとう。」と俺に言うだろう。

そうしてきっと、もう、俺を呼び出すこともない。


どうして。


しゃらんしゃらんと音を立てそうに小気味よくゆれるポニーテールをひっつかみ、

無理やりこっちを向かせてキスしたら、

ねーちゃんはどんな顔をするだろう。

抱きしめて、好きだと言えば、ねーちゃんは、なんと言うだろう。


どうして?


どうして俺は、あんたの弟に生れたんだろう。

せめてにーちゃんとかなら、もっと恋の相談とかにも乗れたのに。

頑ななまでに俺に縋ろうとしないあんたを、イチムラみたいに抱き寄せて、

髪を撫でてやることくらい出来たのに。

気休めでも救うことが出来たのに。


あんたの弟に生まれくらいなら、

姉弟として出会うくらいなら、

愛しさなんて知らなくていい、

もどかしさも、切なさも、

何もいらないのに。

生きている意味もない。

こんなにそばにいるのに、

手を伸ばせば、

触れられるのに、

それだけのことが出来ない俺が、

どうして今、ここに存在しなくちゃならない?


「ヨシアキ?」

「は、はい!」


いきなりねーちゃんに振り向かれて我に返った。

今、俺は、ねーちゃんのポニーテールに手を伸ばそうとしていて、ねーちゃんが振り向かなければ、

俺は、ねーちゃんの髪を鷲掴みにしていただろう。


「どうしたの?」


いつの間にか俺達は、30分の道のりを黙ったまま歩き続け、リストランテアップルまで到着していた。

「いや、その、」と言いよどむ俺に、ねーちゃんは、「ちゃんとご挨拶してね。」とまるで子供に言うように注意して、ちゃんと出来るかしらと心配そうな顔をした。

「わかってるよ。」


ねーちゃんは、意を決したように俺に向かって頷き、店のドアを開けた。


いらっしゃいませ、と誰かの声がする。


もし。


不意に考えが浮かぶ。

もし、俺が、ナツキと言う女を店長から奪い取ってやったら、どうだろう。


店長が、ねーちゃんの良さは十分にわかってて、それでも選んだ女を、

口説き落としてやったら、どんな気持ちがするだろう。

おまえの選んだ女なんて、その程度だと笑ってやったら?

傷ついた店長は、そこでやっと「やっぱり俺は見る目がなかった。」と、

ねーちゃんの一途な思いにやっと応えてくれるのだろうか。


「トモミちゃん、何だ、彼氏連れかあ?」

ねーちゃんが店に一歩踏み込んだ途端、店の奥のカウンターからおっさんが声をかけた。

グレーのサラリーマンスーツを着た神経質そうなおっさんだ。

40は過ぎてるだろう。

でもっておっさんは、馴れ馴れしくも手招きでねーちゃんを呼んだ。


「こっちこっち!もう店長のおごりだってんで一番高いワイン頼んだから!」

おっさんはすでに出来上がってるらしく、妙にハイテンションだ。

「ま、当然と言えば当然かな!俺がナツキを見つけてやったんだから。」

「そうですよ、スズキさんのおかげですもの。ね、店長さん。」

ねーちゃんは厨房を覗き込み、パスタを茹でている店長に会釈をしてからスズキとか言うおっさんの隣に座り、俺にも横に座るよう椅子を示した。

俺は、ねーちゃんに言われた通り、店長に会釈してスズキにこんにちは、と言った。

「ごめんね、今、ちょうど混んで来て……注文は?」

片手だけで器用に卵を割りながら、店長は左手で伝票に手を伸ばす。

「えっと、今日のおすすめとジンジャーエールを二つください。」

「トモちゃん、今日は店長のおごりなんだから、もっと高いもん頼みなよ。」

にこやかに答えたねーちゃんが言い終わらないうちに、後ろから誰かがそう言った。

「そうそう、トモミちゃんはナツキがいない間、この店手伝ってくれてたんだから、キャビアとかフォアグラとか頼まないと!」

「そんなメニューないって。」

「アハハハハハ。」

ねーちゃんと、スズキと、そいつが笑った。


だ、れだ?


「で、トモちゃん、彼氏、なんて言うの?」

「あ、ヨシアキです。んもう、ちゃんとご挨拶してねって言ったのに。」

「ふーん、よろしく。」


そいつが右手を俺に差し出す。

人懐っこい笑顔。

肩まで伸びた不揃いな髪を無造作に後ろで束ねてる。

耳にはざくざくピアスがはまってて、両耳合わせると7つもあった。

「……よろしく。」

立ち上がって俺も右手を差し出す。

俺の手を満面の笑みで握り返したそいつは、俺よりも背が高い。

だけど体重は俺よりも軽いだろう。

いくつだ?年上っぽいけど何だか妙に子供染みた身体をしてる。

ハーフ?と思わせるほどのくっきりと大きな二重の目と、通った鼻筋、駄々っ子みたいに厚い唇。

日本の芸能スカウトマンはいったい何をしているんだろうと思うほど、きれいな整った顔をしていた。


「ナツキ!5番テーブル!」

店長が厨房から出来上がったばかりのカルボナーラを差し出す。

まさかとは思っていたけど、やっぱりそいつが「ラジャー」と答えて皿を取った。


「ヨっちゃん、座ってなよ、すぐ出来るからさ。」


想像していたより広い店の中を、カルボナーラを手に、

泳ぐようにさっそうと歩いていくナツキを見つめたまま、

俺は呆然と立ちすくんでた。

ねーちゃんは、スズキと楽しそうに話している。

どういうことだ?とも聞けないまま、俺は店長の方を見、

それからもう一度ナツキを見た。

何回見ても間違いなかった。

ナツキは、

たいそうきれいな顔をした、

男、だった。




ONESTAR~10「俺の唯一の光」に続くにへ


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