朱里が産まれてからの毎日は
壮絶なものだった

母乳をあげてオムツを変えて
すぐ泣いてだっこして
俺は学校に行ってるし帰ってから
手伝うようにしているけど
夜中になると美優紀はずっと抱っこしてる
菜々もあっちゃんも母さんも手伝って
サポートは十分やと思ってるけど
それでも母親としてやることは沢山だ

世の中のシングルマザーと呼ばれる
お母さんたちは本当に大変な思いを
しながら必死に育ててるんやな
改めて自分の無知さと甘い考えに
嫌気がさす

「朱里〜今日も可愛いなぁ」

「キャッキャッ」

「…」


「朱里抱っこしながら
そんな複雑な顔しなくても」

「美優紀」

「ンギャッ…アァァァァ」

「あ、オムツかっ」

「んーんお腹すいたんやと思う
朱里ーおいで」

「分かるん?」

「うんなんとなく
ずっと一緒におるからなぁ」

「そうなんや」

「朱里おっぱいあげるなぁ」

慣れた手つきで抱き直し
母乳をあげる美優紀
昔の人が絵を描く気持ちも分かる
なんというか、神々しい

「何見てるん?」

「いや、別に///」

「さぁちゃんにはあげへんで」

「は、はぁ!?い、い、い!いらんわ!///」

「フフッ冗談

朱里ー飲み終わったなぁいい子いい子
ほらねんねしよっか」

優しい声とゆったりとしたテンポのトントンで
朱里は眠ってしまった
すごいなーと感心しながら見ていると
美優紀の目元にはくまが出来ていて
髪はボサボサですっぴんで
少し前までの美優紀は
家でも化粧してコスメが大好きで
オシャレが好きで
それなのに…

「どーしたんさぁちゃん」

「いや、毎日毎日
美優紀ばっかり大変で俺なんも出来んくて」

「そんな事ないよ
ママたちにもいっぱい手伝ってもらってるし
さぁちゃんは学校あるんやし
仕方ないやんか」

「でも俺…父親なのに」

「気にしないで?」

「…」

「あ、そろそろ家帰る?
テスト前やんなぁ
よいしょっと朱里のことあやしてくれて
ありがとね」

最近、美優紀を遠く感じてしまう
少し前まで美優紀はいっつも俺の後ろを
歩いてきていた
好きだなんだと言いながらずっと
それなのに今は…美優紀の後ろを俺が歩
いや、、走ってる…追いつかないんだ


「…」

「さぁちゃん」

「美優紀?寝室に行ったんじゃ」

「ママに朱里預けてきた
さぁちゃんなんかあった?」

あぁ…もうダメだ…


「さぁちゃんっ…?」

「見るなっ…かっこ悪いからまじ」

「…フフッ」

溢れ出た涙を指で拭われ
微笑まれた
あー嫌だなその顔も
昔ならさ俺が泣いてたらちょっとバカにした顔で
えー泣いてんのー?なんて
煽ってきたくせにさ
今なんか
そんな優しい顔で大丈夫やでって
ますます情けなくなるやんか

「さぁちゃん…大丈夫やで」

頬に手を当てそう呟いた
なんでそんなに温かいねん、優しいねん
あぁ苦しい苦しい何もかもが

「マジ…情けなくて、カッコ悪くて」

「ハハッ何言ってんの?さぁちゃんがかっこ悪いのは
昔からやんか
お菓子少なかっただけですぐ拗ねて泣いて
意地っ張りでプライド高くて」

「…」

「カッコ悪すぎて…カッコよすぎるんでしょ?」

「美優」

「ごめんね、私がもっと考えてたら
さぁちゃんのことこんなに苦しめなかったのにね」

「違う全部俺が子供で」

「まだ子供でも良かった年齢やろ」

「それは美優紀やって」

「ママはね約1年かけて赤ちゃんと
一緒に親子になれるねん
でもパパは違うもん
仕方ないよ」

「美優紀…俺さ」

「学校やめて働いたって
意味ないよ」

「…」

「ありがとうさぁちゃん
優しいね」

「…」

「さぁちゃん?」

「…キスしてええか?」

「ふふっそんなこと言うてくれるの?」

「いや、嫌ならええねんけど」

「嫌なわけないやん
むしろこんなんでええの?
こーんなボロボロでさ今の私女じゃないやん
クラスの子とかの…ンッ!?」

「…」

「さぁちゃっ、どうし…ンッ…さぁちゃん」

「そんなわけあるか、、
綺麗や…俺にもったいないくらい」

「さぁちゃん…」

「美優」

そこからまた唇が合わさり
キスをし合う
こんなにも温かくなるんや…

「ごめん私しばらくは…」

「うん、分かってる
朱里産んでからまだそんなに経ってへんのに」

「うん」

「また俺情けない…へっ//」

美優紀は微笑みながら
首に手を回して見つめてきた

「こんなボロボロな私でも
そーいうふうに思ってくれるのが
すごい嬉しい
愛してるよ、彩」

「っ///」

「フフッ顔真っ赤」

「ンギャァァァッ…」

「あ、朱里泣いてる
そろそろ行かへんと
さぁちゃんおやすみ」

ガラガラッ

「なんやねん…もぉ
はぁ、、幸せってこういうことなんか?」