経済予測 - 希望的観測を排した予測を
各ステークホルダーの経済予測
10~12月期のGDP(年率換算)はマイナス12.7%と発表されました。かなりのマイナス幅です。もっともこれは四半期の数字ですので、年間にすればもっと平たくなると思いますが。しかしこれは市場予想を上回るマイナス幅だったので、各経済予測機関は年度のGDP予測の修正を余儀なくされていると思います。
これを受けた修正予想はまだ出そろっているわけではないですが、過去にどのような予測をしていたかを確認することはできます。それを持って各ステークホルダーの思惑やバイアスのかかり具合などを観察することができます。では各機関はどう予測していたでしょうか。
政府: 08年度マイナス0.8%、09年度0.0%
JPモルガン証券: 08年度マイナス1.3%、09年度マイナス1.5%
日本銀行: 08年度マイナス1.8%、09年度マイナス2%
政府は甘めの予測をしています。そちら方向にいろいろなバイアスがかかっているからでしょう。一方、日銀は民間をも上回る悲観的な予測をしています。政府の予測からこんなに離れるのはまれなことです。今のところ日銀が政府のバイアスから解放されていることを物語っていると思います。私はこれを見て日銀の予測は(日本の中では)なかり信憑性があると判断しました。
経済予測の難しさ
経済の予測というのは大変難しいと思います。その理由は3つあります。
1つに、経済というのは人の心理が動かしているものだからです。人は気まぐれであり、また地球上にはあらゆる価値観を持った人がいて、違う価値観を持った人の気持ちを慮(おもんぱか)るのは容易ではないからです。
2つ目に、技術の発展というのはイノベーション的に起こることが多く、一気にに変化を加速します。これも予測は容易ではありません。
3つ目に、市況と市況予測はフィードバック回路になっているということです。これはたとえば政府が経済予測を発表したとすると、その予測により実体経済が動いてしまうということです。政府の発表が思っていたより下振れしていた場合には、企業は生産を抑えようとか、賃金を抑制しようという決定材料になります。個人においても買い控えや、投資資金の引き上げにつながります。政府の発表が上振れしていた場合は逆のバイアスが働きます。これを解こうとした場合には再起回路の無限ループに陥り、解くことはできません。
ヒューリスティクス(希望的観測)を排した経済予測を
予測が実態に影響を与えるということは、実体経済を操作できるということです。景気は良いほうがいいことは確かなので、多少かさ上げしてでもよい予測を発表していれば、実態にも良い影響を与えるのではないか、と思うこともあります。
ところがそうではありません。
恣意(しい)的な希望的観測を発表したとして、たまたま当たればそれでいいかもしれません。しかし外れた場合、または希望的観測をしていることがばれてしまった場合の損害は多大なものとなります。
オオカミ少年症候群、疑心暗鬼になってしまいます。経済にとって疑心暗鬼=信用の失墜ほど恐ろしいものはありません。金は借りられなくなり、誰も将来に向けて投資しなくなります。証券は売られ下げ止まらなくなり、深刻な不況となります。
疑心暗鬼とは文字通り、暗闇に鬼が潜んでいるのではないかと疑うことです。子供はお化けを怖がります。それはまだ世の中を正確に判断できていないからです。でも大人は怖がりません。暗闇にお化けはいないことを知っているからです。恐怖を克服する方法は実態を正しく知ることです。
予測が観測対象に影響を与えるというフィードバック回路になっている系では、楽観的観測や、悲観的観測、恣意的観測をしてはいけません。経済予測機関や格付機関はとくにそうです。データを基にした客観的計測ができなければなりません。予測者はアンカリングやバイアスを排し、ある意味機械的にロボットのように予測を抽出していく能力が求められます。
その点において、日銀は公平で中立的な判断ができていると思われます。別に私は日銀の関係者ではないので肩を持つわけではありませんが、日銀の一番の能力はその情報分析能力であるということを認識しました。白川総裁はなかなかの切れ者かもしれません。
【参考文献】
日本銀行ホームページ
日本銀行 - 当面の金融政策運営について