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Making My Life

自分を見つめ直し自分を作り上げていくためのブログ

オレの声は軽い。タンポポの種やシャボン玉よりも軽く儚いのではと自分では思ってる。
子供の頃から柴田恭兵さんの渋くて男らしい声に憧れ、そんな風でないオレの声はコンプレックスの一つだった。
Mの風貌には似合わない野太い声や、相棒のSの透き通るような高音なのによく通る声も羨ましかった。

彼らの練習場は市内中心部にあるガレージで、Mの親戚筋の持ち物だった。大音響も近所迷惑にならないような秘密基地。Mからの要望に応えて出向いたオレをS以外のメンバーが迎えた。

M「早速で悪いけどさ、歌ってくれない?」
オレ「はぁ?」

本当に、意味が分からなかった。

M「主催者に確認したらさ、代役を立てての出場認めてくれるってさ。だからオレ、お前にお願いしようと思って」

まてまて待て待て!Sの事故で気が動転してるのは分かるが、ヤケを起こすな!確かに時間がないから身近で捜したい気持ちは分かるが適任者なら他にもいるだろ?
みたいな反論をした。
だが、Mの次のセリフですっかりやられてしまった。

M「いや、実はメンバー全員お前の声が好きなんだよね!以前みんなでカラオケに行った時にSのヤツなんかべた褒めしてたくらいだから」

確かにオレは臆面もなく彼らの前でカラオケを披露したことがある。CHAGE&ASKAの曲を余興のつもりで。だが、そんな言葉で騙されるほどお人好しのつもりもなかった。
なかったんだが…コンプレックスに思ってたことを好きだと言われて悪い気がするわけもない。
とどめにMが言う。

「オレ達はツインボーカルあってのバンドだから、納得した形で出場したいんだよ。そしてオレ達はお前の声を望んでる。頼む、助けてくれ!」

もう何も言えん。一気に激流に飲み込まれた気分。まるで漫画やドラマの主人公なんじゃない?とさえ思った。
深呼吸して見回せば、メンバーのみんな真剣な表情だった。あんな表情の彼らを見たのは最初で最後だったかもしれない…

「フェスまでの…限定で、な」オレはこう言うのがやっとだったと思う。
「優勝しゃちゃったら、いつまでもヨロシク!!」Mのヤツがオレの背中をバシバシっと叩いたような記憶がある。

ああ~もうなんとでもなれと思いながら見上げた先にあるガレージの照明が眩しいから視線を落としてみれば、そこにはメンバー達の笑顔が更に眩しく広がっていた。
断片的には記憶も薄れているが、オレはこの日の事を一生忘れないと思う。

次の日、入院中のSを見舞った。
大怪我人を前にして、あんたのせいでオレ大変なんですけどと弄った。
骨に響く~痛い~と言いながら、顔が笑顔だったのはまるで昨日のことのようだ。

今まで触ったことのないスイッチをオンにした気分だ。
その日から、オレのバンドマンとしての約3週間が始まった。

(続く)