実際に歌わせてみれば実は天才でミラクルヴォイスの持ち主だった…
なんて漫画みたいな展開には当然ならない。
現実的に、ヴォーカルやってる人達は努力も必要だが、それも素質があってこそ成り立ってると思う。
わかりやすいところで言えば、練習を毎日何曲もすれば一般人は喉をやられる。
それを極力回避する方法の一つがヴォイストレーニング。
その詳細は長くなるので割愛するが、単純作業のコレが結構キツい。
キツいが、これを習得すると喉をやられない上に声質が確実に向上する。
最初の一週間はコレに費やした。それでも足りないんだけど。
次の一週間は、弾けないギターをどこまで弾けるようにするのか皆を巻き込んでの特訓だ。
ヴォイストレーニングをしながら弦楽器の何たるかは心得たつもりだが
いかんせん左手と右手が同じ動きをしてしまう初心者ぶり。
まさに猫に小判状態。
メンバーと相談して、肝心な場面のじゃじゃんじゃじゃんじゃじゃじゃじゃーん!だけは何とか習得し、あとはエアー状態。情けなかったが、オレの不器用な指先からあんな音達が飛び出てくる快感、感動はやみつきになってしまう。
最後の一週間はセッションの連続。
フェスは持ち歌2曲勝負。1曲目はアップビートかつ歌詞はシンプルだったので勢いでやれる感じだったが問題は2曲目。
半バラードというべきラブソングだが、歌詞が難しかった。リズムを気にすると舌が回らない感じで、セリフを気にすると音階がずれてる感じがするやっかいな曲。
そして最大の問題は、この曲の立ち上がりがオレのソロだったところだ。代役にやらせるか?そんな重要なパーツを(笑)あと、サビのハモリもオレを悩ませた。
このグループの作曲はMとSがそれぞれ受け持ったが作詞はASKAの影響を受けてるMだけが担当していた。2曲目は高音域を得意とするSらしい歌だから中音域しか出ないオレにとってはハードルは高かった。ただ、メンバーや友人からの激励や協力は暖かかった。
この段階ではもう、使命感しかなかったように思う。
この人達をガッカリさせてはいけない、と。
パフォーマンス、振り付けなどはMに任せたんだがツインボーカルの宿命。Mの動きに合わせて踊らなきゃならない箇所が1曲目に複数あり、そこが皆を不安がらせた。
かのエヴァンゲリオンでシンジとアスカがユニゾンの特訓をした如く、フェス前日はこの特訓が目立った。
オレはオレなりに、いや、オレがオレでないような、ありえないくらい頑張った3週間だった。
誰の目にみてもオレはSの穴埋めを出来なかったが、そんな簡単なものじゃない事は皆が分かってくれていた。
最後の練習が終わった後、ベースのYさんとドラムのTが一緒に声をかけてくれたのはよく覚えている。
「キミに出会えて本当に良かった」みたいなセリフ。
その時は照れ笑いしかしなかったと思う。
オレの方こそ、最高の時間をありがとう…
その前日に、オレは生まれて初めて髪を明るく染めた。
そしてフェス当日。オレは今のところ人生で唯一の化粧をした。
昨日まで重く感じてたSのギターがやけに軽く感じた朝だった。
(続く)