その後、描き続けて小田夫婦の肖像画は出来上がった。
その時は感謝されて、なんとか心の持ち方を変えずにがんばれたが、草刈家の間借りのような家に戻ると、再び襲う上田へのやるせない自分の行動を考えてしまう。
意味もなく自ら決別した上田との仲を修復する身分でも無いのだ。何も出来ない!連絡待ちだけの僅かな繋がりは、時間だけが過ぎていく。
そのうち忘れてしまうのだろうか・・そんな一方的な感情は悲しく、絵にも影響し描けなくなっている。
会わなければ会いたくなる弱い心理は愛しい人と思うのか?そんな願いが叶うように上田からLINE「久しぶりだね、元気でやってる?」
圭子は添付写真に直ぐに反応してしまい「まだ壁に飾ってあるのね、嬉しいわ」
上田は絵をどうするのか知りたくて連絡したのだ。すると、いきなり「奥様は香川久美さんだったんですね」
「久美さんは山岸さんと再会してます」と自分の身の潔白を晴らすかのように、久美を全面に押し出して嫌な女になっていた。
(コデマリ)
・・上田は・・
圭子は、俺の離婚相手の久美を知っている?・・さらに話を聞くと、石川の一周忌に参列して奥さんと娘の良美にも挨拶もしている。
久美の不倫相手は石川だけじゃなくて、山岸とも付き合っていたということを圭子から聞くと、忘れかけた怒りが圭子にも向けられた。何故、言う?
久美と山岸が一緒なら・・圭子は今どこに居るのだろうか?圭子の世界を動かしたのは、上田でもあった。俺と出会わなければ、絵を描いて幸せだったかも知れない。
きっと俺にも責任があるように思えてくる。
会っている時は何でもない日々を過ごし、離れれば気になるような、こんなにも違う自分が存在していた。