(46)渡辺くんとは皆が集まる店内で話しているだけで、夫には「女子会よ」と、自信を持って言えるのだが外出が多くなっている。それは可愛がっていた猫が死んでしまったことも影響していると思う。
涼子の予定表には夫のような疚しい予定はないが、想いを抑えることも出来ず「もし、あの時に戻れたら何を伝えたい?」と、渡辺くんに聞いていた。
「地区大会で優勝したかったなぁ。自分には何か欠けていた・・」
「何が?」
「チームの主将として、積極的な行動かな?」
「泥と汗の野球根性?」
「いや、それはどのチームもやってたけど。そうじゃなくて・・監督に『おまえには好きな女子は居ないのか』と苛ついてた。好きな人は居ますと言ったら、じゃ彼女の前で好きですって言ってこいってね」
「へー・・」
「恥ずかしくて言えなかった。自信が無かった・・それがチームを引っ張って行けなかった気がする。多分監督は、それくらいの気持ちで戦えと言いたかったんだろうね。松田は好きな人が来ていると知って、打ったって凄いと思うよ。あの時、松田の打ったホームランがまさにそれだった」
「それで、渡辺くんは誰に言いたかったの、冬子?」
「いや、違う」
狭い店内は酒と生春巻きが美味いと騒がしくなってきていた。涼子は、このままだと渡辺くんと二次会に着いて行ってしまいそうであった。
専業主婦としては夜遅く帰宅するのは言い訳出来ない。二次会に誘われる前に「ねー、冬子は?どうしてる?今度、私の家で飲みましょうと伝えてくれない?」
それが弘美に伝わり「楽しみね 私も参加したいわ」と応えてくれる。新井先生も「私も・・」
「ぜひ」我が家に冬子が来ることを願った。
その後、松田の夕方からの仕込みを考えてだろう「そろそろお開きにします。飲み足りない人、話したりない人は二次会へ」
渡辺が締めると、それぞれが片付けに参加してくる。ボール拾いだった長田くんが皿洗いを始め「あの時の癖ですかね、先輩たちに会うと今でもこれですよ」
率先して片付けてくれる。涼子の制服を「お似合いです。当時の純粋な気持ちに戻ったようで心が洗われます。好きだと告白も出来ない青春時代は宝物ですよ」渡辺くんは間違ってないと、聞いていたような言葉を返した。
そして「ここで集まっている旧友たちは、パンドラの箱を開けて昔の想いをぶつけたがっている。40代は過去を開けたがっているかもね」と笑わす。この人・・長田くんは今でも正直な人だと思えた。つづく
