第72期B級1組順位戦/9回戦「深夜の熱闘を振り返ろう」
本日の将棋界では
第39期棋王戦本戦トーナメントの準決勝
「羽生善治三冠-永瀬拓矢六段」
「郷田真隆九段-三浦弘行九段」
の二局が行われています。
ベスト4からは棋王戦独特のレギュレーションである
「2敗失格システム」が適用されます。
本日の準決勝に勝利した棋士同士で本戦決勝を行い
勝った側がもちろん本戦優勝、敗れた側は敗者復活戦へ。。
↓
それに先立ち
本日敗れた棋士同士で敗者復活戦/1回戦を戦い
その勝者が本戦準優勝者と敗者復活戦/決勝を行います。
↓
敗者復活戦優勝者が
あらためて本戦優勝者と挑戦者決定二番勝負を行います。
この時、本戦優勝者には
アドバンテージとして、勝ち星1が与えられており
二番勝負で後1勝すれば挑戦権獲得、敗者復活者は2連勝が
挑戦権獲得の絶対条件となります。
つまり、全員1敗までは許され
2敗した時点で挑戦権獲得の目がなくなるという変則ルール。
最後の最後まで誰が挑戦者になるのか、予断を許しません。。
果たして最終的に挑戦権を獲得するのは
どの棋士となりますでしょうか。。注目です。
【 夕食休憩前の局面・50手目△9六歩 】
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 歩2
△豊島七段: なし
さて、今回は
昨日行われました第72期B級1組/9回戦の
首位攻防戦「広瀬章人七段-豊島将之七段」の
夕食休憩明け以降の展開を振り返らせていただきます。
豊島七段の「角換わり」から
双方、ガッチリと入城を果たす「相矢倉」へと進行した本局。
その要因となったが
角交換後の豊島七段の右の銀の活用方法。。
「腰掛銀」に構えた広瀬七段に対し
一つフェイントを入れてから「棒銀」に構えました。
「矢倉囲い」完成後
9筋で歩を突き捨てた豊島七段は(46手目△9五歩)
7筋の歩を取り込んでから、嫌らしく歩を垂らして
「棒銀」を捌きに出ます。。
上図の局面で
広瀬七段は33分考え、そのまま夕食休憩に。
51手目▲9六香。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 歩3
△豊島七段: なし
夕食休憩明け直後
広瀬七段が意を決して、▲同香と応じると
以下、△8六歩~▲同歩~△9五香~▲同香~△同銀で
まず香交換が成立。
さらに、広瀬七段の▲6七金右をみてから
豊島七段は△8六銀~▲同銀~下図60手目△同飛と
「棒銀」を捌き、飛車先を通しました。
60手目△8六飛。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 銀、香、歩4
△豊島七段: 銀、香、歩2
夕食休憩明けからここまでは一直線の進行。
淡々と受けていたように思えた広瀬七段でしたが。。。
67手目▲8六香。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 角、歩3
△豊島七段: 銀、香、歩2
ズバッと角を切り(64手目▲7六角)
対価として得た銀をすぐに広瀬陣営へと打ち込み
波状攻撃を仕掛ける豊島七段(66手目△4八銀)。。
このまま受けっぱなしでは面白くないと
広瀬七段はこの銀に構うことなく、豊島飛車に向かって
露骨に香車ロケットを対峙させました。。
71手目▲1五歩。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 角、歩4
△豊島七段: 銀、香
しかし、豊島七段が
香車ロケットを歩で叩きながら吊り上げにかかると
広瀬七段は香車ロケットを見捨てて、1筋でアヤを求めます。。
広瀬七段には中盤戦が少し悪くて、受けに回った時の方が
強味である終盤力を発揮されやすく、結果逆転勝ちをおさめる
パターンが多い印象があります。。。
果たして、本局の香車ロケット投入も
単なる時間稼ぎであり、構想の一部だったのでしょうか。。
上図から次に
豊島七段は1筋の歩の突き合わせを手抜いて
香車をゲットしました(72手目△8五歩)。。。
82手目△6七金。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 角、銀、歩5
△豊島七段: 銀、香2、歩
一方、豊島七段の中盤戦は
例えば渡辺明三冠のように最新形の分れで
「この一手」というような、ここで勝負が決していまうような
強い手を指す印象はあまりありません。
むしろ、良さ気な時であっても
局面を一本に決めつけず、常に含みを持たせるような
一見すると攻めるのか守るのかの方針すら分かりづらい
あえて言うなら羽生善治三冠に近い印象を受けます。
しかし、本局は切れ味鋭く踏み込みを続け
あっという間に「広瀬矢倉」は崩壊。。
厳しい状況に追い込まれた広瀬七段の次の一手は。。
83手目▲8三銀。
上図でも持ち駒
▲広瀬七段: 角、歩5
△豊島七段: 銀、香2、歩
豊島飛車を直接的に叩く「勝負手」▲8三銀を投入。
次に豊島七段が△同飛車と応じれば、一目タダですが
2九の地点で息を潜める「遠見の角」がラインに捕らえ
玉頭の驚異となっている飛車を抜くことが出来ます。。
しかし、豊島七段は△同飛車とは応じず。
△4二飛と回り、主導権をがっちりと握りました。。
終局後に追加された
感想戦のコメントでは、▲8三銀に代えた▲7八銀だったら
逆に先手が優勢だったとのこと。。
広瀬七段にとっては痛恨の失着となりました。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 角、桂、香、歩3
△豊島七段: 銀、香、歩4
しかし、手番を握った広瀬七段は1筋から逆襲。。
上図では飛車が捕まりましたが、次に△5六角と出て
飛車と刺し違える形で6七の地点にぶらさがる金を払い
当面の危機を免れました。。
(上図から▲5六角~△2七香成~▲6七角~)
125手目▲1一銀。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 角、金、桂、香、歩5
△豊島七段: 角、金、香、歩
広瀬七段はここぞとばかりに玉の上部脱出を敢行。。
豊島七段が戦力を惜しげもなく投入するもものともせず
バッタバッタと後手の刺客を振り払い玉の前方を確保しつつ
一瞬の隙を逃すことなく、鋭く反撃へ。。
この当り、はやり大器の片鱗をうかがわせます。。
141手目▲3五桂。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 金2、香、歩8
△豊島七段: 角、金、銀、桂、香2
しかししかし。。
本局ではさらにその上を行った、豊島七段の凄まじい終盤力。
角とのコンビで手筋の桂馬が打ち込まれた上図の局面。
先手は二枚の金を持っており、いかにも後手が危なそうですが。。
142手目△7三桂。
上図での持ち駒
▲広瀬七段: 金2、香、歩8
△豊島七段: 角、金、銀、桂、香2
「いや、俺の玉は詰まないよ」と。。
豊島七段は
受けることも逃げることもせずに右の桂馬を余裕の跳躍。
緊迫感溢れるこの局面で、驚きの勝利宣言。。
さらにここから
スリル満点のギリギリの攻防が40手以上続きましたが。。
【 投了図・186手目△9五金 】
投了図での持ち駒
▲広瀬七段: 角、銀、歩6
△豊島七段: 金2、銀、香、歩
最後は広瀬玉を受けなしに追い込み
終局時刻2時3分。186手にも及んだ大熱戦を見事制し
豊島七段が堂々、A級昇格争いのトップに立ちました。
末恐ろしいとは、まさにこのこと。