まさかの結末。。加藤九段、勢い余って反則負け
非公式戦ながら
不惑をむかえた「羽生世代」が続々と参戦を果たし
急速に注目度をあげている将棋界のマスタートーナメント
今年、第20回目をむかえた富士通杯達人戦。
本日は
準決勝「森内俊之名人-加藤一二三九段」という
異色にして大会屈指の好カードが実現いたしました。
7手目▲7七角。
上図での持ち駒
▲森内名人: なし
△加藤九段: なし
最近でこそ
奇抜な言動・行動の方で大人気を博す加藤九段ですが
史上初の中学生棋士となり、20歳で名人挑戦を果たすなど
将棋史に燦然と輝く伝説的な名棋士。
繰り返しTwitterのタイムラインに流れてくる
この熱き名言に代表されるように
72歳となった現在でも
将棋に対する情熱、そして勝利への執念は全くもって
衰えることを知りません。
本日は現役名人との対戦
本物の勝負師・加藤九段の本能は、獲物を狙う肉食獣のように
ギラついているはず。
振り駒の結果、森内名人の先手となり
初手から▲7六歩~△8四歩~▲2六歩~△8五歩~
加藤九段は角道を開けることなく
飛車先の歩を突き越し、「角換わり」を目指す進行となりました。
10手目△4四歩。
上図での持ち駒
▲森内名人: なし
△加藤九段: なし
注文をつけた後手から角の交換。。となるのかと思いきや
上図10手目に、加藤九段は一度開いた角道を止める
趣向をみせます。
次の11手目。森内名人は当然の▲2五歩とし
角頭の受けを後手に催促すると
加藤九段は△3三角とはせずに、12手目は
2006年以降、愛用しているというこだわりの△4二銀。
変則的な出だしとなりました。。
16手目△4三銀。
上図での持ち駒
▲森内名人: 歩
△加藤九段: 歩
本筋重視の本格派・森内名人は
ならばと飛車先の歩を交換し、飛車を走らせご挨拶。
そこでも加藤九段は2筋を受けることなく
17手目△4三銀と立て、あくまでの己の道を貫きます。
31手目▲7七銀。
上図での持ち駒
▲森内名人: 歩
△加藤九段: なし
森内名人が飛車をおさめてからは(19手目▲2八飛)
相居飛車の格調高い駒組みが粛々と進行。
加藤九段は自陣三段目に二枚の銀を並べる「雁木」。
森内名人は後手の動きに注意を払いながら
「矢倉」囲いを目指す展開に。
41手目▲5七銀。
上図での持ち駒
▲森内名人: 歩
△加藤九段: なし
端歩を詰められるのを前提に
加藤九段は角を旋回し、アングルをリバース。
右の桂馬も跳ねあがり、中央を厚くし力を溜めます。
森内名人も負けじと攻撃部隊所属の右の銀を
5七の地点に配し、迎撃体勢を整えました。
その瞬間
森内玉の左右の肩にそれぞれ金と銀が乗っかる
美しい対称形が描きだされ、絵心を刺激する模様に。。
なったところでお昼休憩突入。
【 お昼のメニュー 】
森内名人: 注文なし
加藤九段: 特上にぎり寿司
お昼休憩明け、午後1時ー
まず最初の事件が、この時発生。。
昼食を注文せず、外食含みの森内名人ならまだしも
お寿司を食べたはずの加藤九段が、なぜか姿を現さず 。。
43手目▲1六歩。
上図での持ち駒
▲森内名人: 歩
△加藤九段: なし
30分近く遅刻をかました加藤九段。
しかし
「そんなの関係ねえ」
と、端歩を突いて心の余裕をアピール。
この手をみて
将棋界を代表する紳士である森内名人は
「先生、ご無事でなによりです」
そっと端歩を受け、加藤九段に気遣いのご挨拶。
森内名人の人柄がしのばれる美しいやりとりから
午後の対局はスタート。
62手目△3六歩。
上図での持ち駒
▲森内名人: 歩3
△加藤九段: なし
ほのぼのムードは、その一瞬だけ。
名人からの白星奪取に燃える加藤九段は
自玉をちゃっかり入城させてから、突き歩の雨あられ
猛攻を仕掛け、森内名人に開戦を迫ります。。
67手目▲1四歩。
上図での持ち駒
▲森内名人: 桂、歩4
△加藤九段: 桂
華麗な崩しから
桂馬を交換し、角を成り込んだ加藤九段に対して
好き勝手にはさせないと、森内名人は序盤に味をつけた
1筋からの逆襲を狙います。。
上図から
△同歩~▲1二歩~△同香~▲1三歩~△同香
と、歩を叩いて香車を吊り上げた森名人は次の73手目に
▲3四歩を入れてから。。(加藤九段の74手目は△同銀)
75手目▲1三角成。
上図での持ち駒
▲森内名人: 桂、香、歩2
△加藤九段: 桂、歩4
思い切りよく、ズバっと角切り。。
勝負を決めに行きます。
83手目▲2二歩。
上図での持ち駒
▲森内名人: 桂、香、歩2
△加藤九段: 角、歩4
角を切った後は
同じく1筋に控えていた飛車がド迫力の突進。。
さすがの加藤九段も玉を逃がすのが精一杯。
96手目△8七歩。
上図での持ち駒
▲森内名人: 銀、桂2、香、歩2
△加藤九段: 銀、歩2
しかし、ここからが加藤九段の真骨頂。。
簡単に土俵を割るはずもなく、攻防手を利かせながら
ジリ、ジリ、と森内玉を追い詰めます。。。
形勢はどうなのか?!
一目では判断のつきかねる、至高の大熱戦となりました。
次の97手目も加藤九段。
△5七馬と王手をかけ、力強く寄せにいきます。。
さあ、森内名人、どう凌ぐのか。。。
って、そんな馬鹿な。
いかに加藤九段といえども
2度続けて指すことは許されず、勢い余ったこの瞬間
加藤九段の反則負けとなりました。。
終盤戦の山場、いいところだっただけに
まさかの決着となり、残念な気持ちが当然大きいですが
心のどこかで、わけのわからないカタルシスを感じているのも
否定できない事実。。。
出来ることなら
また近いうちに両者の対戦をぜひ、拝見したいところであります。