「エモくなかったすか?」
ライブ後、特典会列に並んでいた時に、スタッフ…今、彼女たちの担当ではないのだろうが、に言われた言葉だ。僕は、特に…と返してしまった。
「そうすか、すげーエモかったっす、俺は」
彼はMAPLEZの音響スタッフもやっていたという。僕はMAPLEZを通ってきたということは特にない。故に、そこまで感じるものもない。
MAPLEZ成分の何もないこの子たちがこの楽曲群をやることについて、何か思うことはないのかと聞いたが、音が鳴ってればそれでいい、と言い切っていた。
MAPLEZが何度目かの解散をして、矢野美優が気がつけば佐野友里子の同僚になっていた。
酷く入れ替わりやユニットのスクラップ&ビルドが多いこの事務所の中で、ずっと居続けていた、もはやそれだけで(もちろんそれだけということもないだろうが)偉大な存在となっていたようにも思う、矢野美優。
最後の頃のMAPLEZは、さながら矢野軍曹とゆかいな仲間たち、といったふうにも見えた。軍曹が鍛え上げる教え子たちとのステージ、といった趣。対バンでごくたまにお見かけする機会があったときに、ああ、相変わらず元気そうね、そんなように気もなく見ていただけだから、実情がどうだったかはわからない。
とにかく、矢野美優はいなくなった。そしてそれにもかかわらず、今でもMAPLEZの音が鳴り響いている。
そのステージに佐藤めりがいる。誰だ。
佐藤はんなはハンナとなり、佐藤めりとなった。曰く、何かを変えたかった、と。
ルナビスナップのオーディションをやっていたはずなのだが、気がついたらFuMAと名前を変えていた。ひとまず、今時は検索しづらいユニット名はよくない。
そして相棒・な子(こちらもナ子からマイナーチェンジしているが、検索しづらくなったと本人談)と新人2人(全くの新人なのかどうなのか、僕は全く知らない)を引き連れ、ルナビスナップの出囃子でステージに上がり、ルナビスナップとMAPLEZの曲を歌い踊っている。それがFuMAだ。FuMAってなんだい。FutureとUMAだそうだ。ついに佐藤氏、UMAになる。確かに何かは変わっている。
新人2人は一生懸命踊っているし、そこまで見劣りもしないように見える。前の体制よりは踊れるのではないか。
ルナビスナップの曲も、前よりはタイトにちゃんと踊るように振り直している。それがゆえに、MAPLEZの曲と並べてみても酷い乖離は感じない。
MAPLEZの曲は基本的にあまり振りが難しくなく、ただハイテンポで勢いよく踊ることにより出来がとてもよく見える、そんなものだと前から思っていた。それも手伝ってか、新グループにしては出来が悪くないように思う。僕がそう見ているだけかもしれない。
ルナビスナップが2月に活動を休止し、6月にFuMAになるまで4ヶ月の休止期間があった。
ハンナはめりになり、ナ子はな子になったわけだが、何かが特段変わったかというと、特に変わっていない。ついでにな子がめりのことをさす際にハンナと言ってしまうことも変わらない。
せっかく始まった第2のアイドル人生が早々に休止に追い込まれ、それから数か月も待たされて漸くの復活、その間は辛かったようだが、ハンナあらためめりは今も特段喜び爆発、という様子でもない。もっとも、この人がそう感情をあらわにする姿を見たことがあるわけでもない。ただ、それこそ前世でデビューしてしばらくの頃に比べれば、静かに気持ちを伝えてくることは多くなった気がする。
それを踏まえても、やっぱり喜び爆発、といったことはない。
私の特長ってなんだろう、と聞かれた。ほかの人にも聞いていたようだ。
ただまっすぐ前を向いて頑張る、そういう段階を卒業したのかもしれない。このグループはどうだろう、自分はどうだろう、自分はこのグループの中でどうだろう、何が長所か、どう売っていくか、どう自分が生き残っていくか、そんなことに目が向き始めたのかもしれない。
な子は相変わらず軽快だ。新メンバーを加えても最年少らしいが、それを感じさせぬ豊かな話しぶり。ルナビスナップ曲の振り直しとMAPLEZ楽曲とで、以前よりは気持ちよさそうに踊っている。何かが上手く噛み合ったら、今後もう少し人気が出るのではないかと最近思う。
決して前に出てガンガン引っ張る、というめりではないから、傍らにな子が残り、軽快に引っ張ってくれることは僥倖なのではないか。
「絶対めりの隣でずっと笑ってくのはな子の仕事~~!」
まあ、まだデビューもしていない。よくわからないが、6月のデビュー戦は「プレデビュー」と銘打ち、曰く今はプレデビュー期間なのだと。もう対バンに出始めて通常稼働、本デビューと何が違うのだろう。
プレデビュー中は衣装が、メンバーの顔のイラストが大写しになったTシャツとショーパンなどといった簡素なものだ。本デビューになれば、衣装も拵えてもらい、オリジナル曲でもできるとでもいうのだろうか。
プレとそうでないのとどう違うのかわかりはしないが、本デビューとなればめりももう少し喜びを露わにするのだろうか。
ルナビスナップの曲とMAPLEZの曲と、あるかどうかわからないオリジナル曲をどうミックスさせるのか、どんな衣装で踊るのか、そんなものはまだ全く見えていない。まあつまりFuMAはまだ始まってすらいない。
ルナビスナップの時は白とシルバーを基調とした衣装だったが、個人的にはMAPLEZをやるのであれば黒基調がいいなあ、とは思っている。黒基調の衣装できびきびと動いて勢いで席巻していく、それがMAPLEZ、いや、ひろしまMAPLE★S…というイメージを勝手に持っている。
ひろしまに拘り続けてほしかったなあとも勝手に思っているが、深入りしたこともないし、ここの歴史もよく知らない。ひろしまとついていたころ、ステージ上の勢い、客の熱気、あの頃勢いのあった地方アイドルの流れそのままの空間で、すごかったなあ…昔話だ。
しかしまあ、矢野美優もいないしな。MAPLEZのをたくはここで曲をやられることをどう思っているのだろう、と思った数秒後に、まあ何も思っとらんよな、と思い当たる。あれだけメンバーもガチャガチャ変わり、ユニット自体も出来たりなくなったりする中で、なくなったユニットの曲をほかの新しいユニットがやることについてもそんなに思うこともないのではないか、まあこれは僕の勝手な想像である。
FuMAを良いものというにも、期待も出来ぬものというにも、どうにもまだ評価もできない。
とりあえず、事務所の歴史の一部をかき集めてFuMAというあいのこが生まれたよと、今はただその記録だ。そしてアイドルとしてまた客の前に帰ってこられた、バースデイガールへのお祝いだ。
お誕生日おめでとうございます、佐藤めりさん。どうにかこの1年こそ平穏に、楽しく、ぴかぴかしたアイドルとして過ごせますように。
あの頃のアストロを選んできてくれたお姫様に陽があたり、ぽかぽかした陽気の中で健やかに過ごせますように。