日記 2016年6月22日 | ScrapBook

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読んだ本についての感想文と日々の雑感、時々音楽のお話を

十年ほど前(二〇〇五年の夏頃)、僕は郷里(四国)にある、とあるシステム会社に勤務していた。社長はジャズとオーディオが好きな人で、オーディオルーム(その会社にはなぜかそんな部屋があり、ばかでかいホーン型をしたスピーカー(avantgarde)が据えられていた。僕はそんな商品名さえ知らなかった)で、二人でジャズ(社長は自分が好きなKeith JarrettのSun Bear Concertsのレコードに聴き入っているのであった)を聴きながら、しきりに僕に向かって、松山でジャズ喫茶をやろうというのであった。
「どうせ、昼間は暇だから、お前は小説でも書いてろ。夜は酒でも出すかー」という、
いたって、ゆるやかな指示があったのだ。

が、当時三十代後半の、都内にある出版社を退職して田舎で自分ができる仕事も見つけられず、切羽詰まっていた僕には、社長の言葉がまるで絵空事にしか聞こえず、
「それはちょっと、むずかしくないでしょうか」と、
これまたゆるやかにかわしていた。その間、Keith Jarrettのピアノが鳴り続けている(まさか、その十年後に自分がSun Bear Concertsにどはまりすることとも知らずに)。

人生にはいろんな分岐点がある。今になって思えば、一か八かやってみればよかったな。コーヒーの焙煎をならっておけばよかった。なんだか楽しい思い出だ。今度、そんな機会があれば、やってみよー。ジャズという即興演奏を好む人間が失敗を恐れることは、そもそもにおいて自己矛盾なんだから。