前作公開の6年後、「アバター」の作曲者であるジェームズ・ホーナーは飛行機事故により亡くなった。
ホーナーはハリウッド映画音楽界においてはジマーやアラン・シルベストリと同等以上の存在であっただけにその衝撃は大きかった。
「エイリアン2」、「タイタニック」、そして前作を共に世に送り出したキャメロンにとってもその喪失は大きかったようで、ホーナーに対して惜別のコメントを発表している。
前作においてホーナーはオーケストラルさよりもパンドラという世界観の構築、そのスピリチュアルさの表現に腐心した。
ホーナーの輝かしいフィルモグラフィーにおいて必ずしも名作とまでは言えないかもしれないが、独特の民族音楽的な楽器、ボーカルを多用したアプローチや、ブロックバスター作品に相応しい躍動的なアクションキューは忘れがたい。
そんなホーナーの後に誰をキャメロンが選ぶかはファンの間でも話題となり、ジェームズ・ニュートン・ハワードの名前も浮上したようだ。
最終的に選ばれたのは、ホーナーをプロデュースの立場から支えていたサイモン・フラングレンであった。
フラングランはフィルムコンポーザーというより、シンセサイザーのプログラミングやアレンジメントの経歴を重ねてきま作曲家であり、この点からホーナーをはじめ、シルベストリらの映画音楽制作に関わっていたようだ。
彼はホーナーの未完成スコア(テーマ曲のスケッチ)から「マグニフィカント・セブン」のサウンドトラックを仕上げ、それが映画音楽作曲家としてのデビュー作となった。
そして、ディズニーランド内のアバターのテーマパーク「パンドラ」の音楽を手掛け、キャメロンの信頼を得た。
本作も基本的には路線を踏襲している。
ホーナーを失ったサントラファンの喪失感を埋めるように随所にホーナーの過去作品のオマージュというべきアプローチをしている。フラングレンはそういう意味で自身に与えられた役割を十分に理解しているのではないだろうか。
加えて、本作のための壮大にモチーフも作曲。このテーマがサウンドトラック全体の屋台骨となって構成されている。ホーナーのモチーフも引用はしているのだが、味付け程度であり、映画本編同様に新機軸を打ち出そうという気概を感じる。
水の世界の表現するにあたって、ホーナー的に神秘的にボーカルに加えて、自身のバックボーンであるシンセのプログラミングスキルは多いに生かした楽曲が提供されており、どこまでも聴き心地がよい。
アクションキューに関しては…これはよくも悪くもだが、いわゆるハリウッドの標準化されたようなアクションスコアのフェノタイプからは脱していない。
前作においてホーナーが書いたドラマティックなアクションスコアの路線は捨てられ、誰が書いても同じようなスコアとも言えるのが残念。このあたりはフィルムコンポーザーとしてのキャリアの浅さも影響しているかもしれない。
としつつも、重要にシークエンスではホーナーの書いたアクションスコアも登場したりする。
「Home tree」は本作のフラングレンが作曲したメインテーマで、よく耳に残る旋律である。
神秘に満ちた、原始的なパンドラの世界へ誘うsongcord openingのボーカル部分においてもこの旋律が使用されている。
Sanctuaryのように、映画のドラマティックなシークエンスにおいてはフルオーケストラによって壮大に演奏され、気分の高揚を誘うモチーフとなる。とても爽快な楽曲である。
A New star 、Mask off、Huntなどで聴かれる攻撃的なテーマは、敵のモチーフ。パワフルな金管を押し出し、重量感に富む。
旋律自体にさほどの印象付けられることもないが、それでも本作の絶対的に悪役である人類の傭兵集団の表現としては十分だろう。
rescue and offなどはこの敵モチーフ、パーカッシブでスピーディーなサウンドによるアクションスコア。
海が舞台とあって、水の揺らぎや美しい海の中の世界を表現すべく、ハープなどキラキラ感を押し出している。シンセやボーカルも加わり、誰も見たことのない美しい海の世界を演出。
美しい曲であることに間違いはないが、やや音楽の表現としての目新しさはなく、驚きや鳥肌が立つということもない。
そんな中でも特記するならば、payakanにおけるクジラの鳴き声を模したようなサウンドだろうか。これはとても良い。最も気に入った曲の一つである。
おそらく今後テレビ番組の感動シーンのBGMとして頻繁に使われていくだろう。
ただ肝心のオーケストラのメロディーにもう少しエモーショナルさがあれば…ホーナーならばもうワンランク上の楽曲にできたのではないだろうか。
The tulkun returnやFriendsも、同様に美しく、聞いていて幸福感のある楽曲だが、同様のことが言える。悪くはないのだが…。
The Huntあたりからアクションスコアが多くなる。敵のモチーフを更にバーバリックにアレンジ。
これら終盤のシーンは、現在的にアクションスコアが必要となることは理解できる。
ただ、音の刺激の割に、曲自体のパワーはホーナーほどないようだ、
Navi attackではホーナーのモチーフとフレングランのスコアを折衷させてアクションスコアだが、フレングランはハリウッドアクションスコアのレシピに沿って作った重低音とリズム偏重という印象で、正直両者の実力差が出てしまっているようだ。
もちろん、ナヴィ族という原始的で崇高な存在への対比として、人類を有機的な存在として際立たせるため、敢えてハリウッドアクション映画的に表現したのかもしれないとフォローはできる。
knife fightはホーナーのエイリアン2ぽい部分があり、またフレングレンのモチーフとの掛け合いも良く、好きなスコアである。
クライマックスを飾るFrom darkness to light、The spirit treeは本スコアの中で最もドラマティックな楽曲である。
総じて、十分に及第点だといえる。いや、それどころかここ最近で本作ほど繰り返し聴いているサントラはない。
フラングレンのモチーフは素晴らしく気に入ったし、アルバムとしてのバリエーションは豊かで、アバターの世界に没入できる100分間のスコアが長いとは思わなかった。
ただ、作曲にかなりの時間をかけたという割には、キャメロンの作り出した映像ほどの革新性はなく、ハリウッドの均質化された映画音楽という印象である。
そういう意味でフラングレンがホーナーに並ぶように突出した才能の持ち主と持ち上げるには至らないが、そもそもホーナーの後釜というあり得ないプレッシャーの中、大きく破綻することなく纏めてくれたと賞賛して良いだろう。
フラングレンのデビュー作を聴く限り、平均的な作曲家だと思っていたので、
個人的には本作にマクニーリーの登板を期待していたし、キャメロンとはプロデューサーとして2作のコラボレーションがあるだけに、一部にはそれを押す声もあった。
しかし、マクニーリーのこのプロジェクトをこなせるだけのスキルがあるかは分からないし、古き良きオーケストラルなスタイルが合う作品とも思わない。
そもそも、クラシックの正当な教育を受けたホーナーに足らない部分を補完してきたのがフラングレンであり、そのフラングレンがホーナーのような叙事詩的スコアの域に達していないからとネガティブに捉えるのは、ホーナーの喪失感から来る押し付けというものだろう。
それに、フラングレンは指揮もしていることから、一定の素養はあるはず。
海外のサントラレビューサイトを覗いてみると、軒並み絶賛である。特にサントラレビューで権威あるfilmtracksでは五つ星を獲得している。
サントラファンとして、必聴の作品にであり、もちろん迷うことなく72分のスコアを含むコンピレーションアルバムよりも、100分超のフレングランのスコアアルバムを選択すべきである。
・メロディー指数:7/10
・燃え指数:6/10
・シンフォニック指数:5/10