読書録:最近読んだ本(その1・小説編) | 隠居ジイサンのへろへろ日誌

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九州北部の街で、愛するカミさんとふたり、ひっそりと暮らしているジイさんの記録

読み終わった本の写真がずいぶんと溜まってしまいました。「小説」、「随筆・実用書」、「片づけ本」の3本立てでアップします。

 

【小説編】

🔳「赤猫異聞」浅田次郎

明治初頭、大火が迫ったため伝馬町の牢屋敷から解き放ちとなった3人の重罪人たちがたどる数奇な運命を描いた長編時代小説です。牢屋敷から解き放たれる際、獄吏から「3人のうちひとりでも戻らなければ戻った者も死罪、3人とも戻れば全員が無罪」と告げられます。解き放たれた3人は、自由の身となったものの、獄吏からの告知に心が揺れ動きます。ようやく大火が鎮火し・・・さて3人はそのまま逃亡するのか、牢屋敷へ戻るのか。

牢屋に火事が迫った場合、巻き添えを食わないように、一時、収容者を自由にするということが行われていました。鎮火して牢に帰ってくれば罪が軽くなるし、帰牢しなければ死ぬまで追われる身になります。はらはらどきどきの駆け引きもあり、読む者を飽きさせない小説になっています。

わたしが好きな吉村昭の「長英逃亡」という長編歴史小説では、蘭学者の高野長英が伝馬町牢屋敷から逃亡し、日本全国を逃げ回る様子が描かれています。こちらもハラハラドキドキです。

ちなみに、わたしが研究している福岡脱藩浪士・平野國臣は、京都の六角獄舎に収監されていた際、「蛤御門の変」による大火が獄舎に迫ったにも関わらず、解き放たれることなく獄吏に殺されました。これは獄吏の犯罪的行為。


🔳「おもかげ」浅田次郎

定年の日の帰りに地下鉄で倒れたエリートサラリーマンの過去と現在を行き来するファンタジックな物語。

泣かせるなぁ。


🔳「銀しゃり」山本一力

江戸・深川で独立した若き鮨職人が精進を重ね、苦労のすえあたらしい味の寿司を編み出し人気となり、旗本の役人の知己を得、ますます繁盛する・・・。
自分の仕事に誇りを持ち、貧しいながらも家族と仲間を大切にして生きていく。笑いあり涙ありのハートフルな人情時代小説です。こういう物語にでてくるような定番の極悪人が登場しないのがいいなぁ。


🔳「白鳥とコウモリ」東野圭吾

父の死に疑問を持つ美令と父の自供に納得できない和真。
事件の蚊帳の外の二人は‶父の真実″を調べるため、捜査一課の五代の知恵を借り禁断の逢瀬を重ねる。
過去と現在、東京と愛知、健介と達郎を繋ぐものは何か。
やがて美令と和真は、ふたり愛知へ向かうが、待ち受けていた真実は――。
光と影、昼と夜。果たして彼等は手を繋いで、同じ空を飛べるのか。
(以上、ネットから引用)。

やっぱりうまいなぁ、東野圭吾。

 

🔳「クスノキの番人」東野圭吾

不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。
心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。
「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と……。
そのクスノキには不思議な言伝えがあった。
(以上、ネットから引用)。

ファンタスティックな物語です。物語としてはとても面白かったけど、ちょっとわたしの好みではなかった。


🔳「審議官/隠蔽捜査9.5」今野敏

大人気の「隠蔽捜査」シリーズ。わたし好みの痛快スカッと物語。

建前や保身は念頭になく、お世辞や打算、ごまかしは一切なし。上役や組織に忖度せず、原理原則で考え行動し、数々の難事件を解決する変人警視・竜崎伸也神奈川県警刑事部長殿。尊敬するなぁ。

今巻は、前の職場である警視庁大森署から頼りにされ、事件にアドバイスしていくストーリー。組織運営も事件解決も、やっぱり原理原則やな。

最後のほうに、大森署に女性の署長さんが赴任してくるのですが、その署長さんの活躍もおもしろそう。次回の「署長シンドローム」というので、その女性署長さんの活躍を描くようです。図書館で49人待ち。


🔳「僕を殺した女」北川歩実

篠井有一は、ある朝目覚めると女に変わっていた。しかも、時間は5年後にタイムスリップしている。ポケットには「ヒロヤマトモコ」という名のキャッシュカード。そしてついに、かつての自分と同じ顔をした、自称・篠井有一が現れた――一体、何が起きたのか? モザイクのように複雑に入り組んだ出来事は、やがて驚愕の全貌を明らかにする。(ネットから引用)。

ある日起きたら若いピチピチ美人の女体になっていた! しかも、心は男のまんま。

こう書くと、股間がもぞもぞしそうですが、そういうヘンタイの話はほとんどなし。次々と謎が絡んでくる本格的なミステリーです。

朝起きたら変身! といえば・・・。

目覚めると巨大な虫になっていたフランツ・カフカの「変身」とか、昼寝から起きたら、顔が畳表になっていた筒井康隆の「怪奇たたみ男」を思い起こさせます。どっちもほとんど覚えてないけど(笑)。


🔳「近鉄特急伊勢志摩ライナーの罠」西村京太郎

熟年雑誌の読者モデルをつとめる鈴木夫妻が、お伊勢参りの途中で失踪した。捜査に乗り出した十津川は、鈴木家で厳重に保管された円空仏を発見する。事件との関わりはあるのか? 謎を追い、十津川は伊勢志摩に向かう。(以上、ネットから引用)。

近鉄特急には、つい最近、東海地方にいる三男のところに遊びに行ったときに乗りました。それにつられて、この本を読んだ次第(笑)。

↓ わたしが乗った近鉄特急のパノラマ車両。最後尾からの車窓風景です。

 

🔳「刑事という生き方/警察小説アンソロジー」米澤穂信ほか


🔳「葛藤する刑事たち/警察小説アンソロジー」松本清張ほか

以上2冊は、刑事モノの短編集です。警察小説を黎明期から覚醒期まで3期に分け、各時代の名手による傑作短編を厳選したアンソロジー。信念を貫きながら組織で揺れ動く等身大の刑事の姿が多彩に浮かび上がる。(青字は、ネットから引用)。

横山秀夫の「共犯者」という銀行強盗の話が秀逸でした。最後の最後、犯行の動機のどんでん返しで泣けました。


🔳「オサキと江戸の歌姫」高橋由太

本所深川の人気“歌姫”の娘たちが中心の物語です。

この物語では、雨止めの伝え歌を歌う歌姫たちが、歌詞通りに次々と死んでいきます。
物語は、古道具屋の手代である周吉が、歌姫・お琴を守るために奔走するところから始まります。アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」を彷彿とさせる展開を持ち、歌詞通りに歌姫たちが次々と死んでいく様子が描かれています。
物語は、時代小説版ミステリーのような要素を含んでおり、ミステリー好きにも楽しめる作品となっています2。また、物語の中では、雨が降り続く中での事件や、大川(今の隅田川)に氾濫の危機が迫る様子など、当時の生活の様子も描かれています。その独特の設定と展開により、読者に深い印象を与えます。

・・・以上、詳しい内容は忘却の彼方に去ってしまいましたので、わたしの代わりに生成AIくんに要約してもらいました。AIくんの文章は味気ないけど、うまいことまとめるもんやなぁ。

ジイさん、脳みそが退化しそう。

🔳「野火、奔る/弥勒シリーズ(12)」あさのあつこ

これは最近読んだので、かすかに覚えています。

刺客であった小間物問屋主人と八丁堀同心、そして同心の手下の岡っ引きの親分が織りなす丁々発止のミステリー時代劇。濃厚な心理描写と闇の中で蠢く謎解きが、ミテリー好きをわくわくさせてくれます。今巻がシリーズ12巻目の最新刊。図書館からやっと借りられました。

今巻は、小間物屋が商う口紅原料・紅餅を積んだ船が行方不明になり、事件の裏に隠された巨大な闇を解き明かしていくというドキドキワクワクなストーリー。あさのあつこさんの描く精緻な心理描写と、謎解き探偵役の同心が放つキメ台詞にも痺れるものを感じます。

まだ映像化はされていないようですが、ドラマにするなら、元殺し屋の小間物問屋主人は永山瑛太、ニヒルで皮肉屋の八丁堀同心は松田龍平という映画「まほろ駅前多田便利軒」のコンビ。ふたりとは時代が違うけど、人情家の岡っ引きの親分は、「鬼平犯科帳」に出てくる三代目江戸家猫八師匠・・・というのはたしか以前も書きましたね。いずれにしても陰鬱で物憂い映像になるやろなぁ。

「弥勒」シリーズ(現在まで12巻)
・弥勒の月(2006年2月 光文社 / 2008年8月 光文社文庫)
・夜叉桜(2007年9月 光文社 / 2009年11月 光文社文庫)
・木練柿(2009年10月 光文社 / 2012年1月 光文社文庫)
・東雲の途(しののめのみち)(2012年2月 光文社 / 2014年8月 光文社文庫)
・冬天の昴(2014年3月 光文社 / 2016年11月 光文社文庫)
・地に巣くう(2015年11月 光文社 / 2018年2月 光文社文庫)
・花を呑む(2017年1月 光文社 / 2019年2月 光文社文庫)
・雲の果(2018年5月 光文社 / 2020年2月 光文社文庫)
・鬼を待つ(2019年5月 光文社 / 2021年2月 光文社文庫)
・花下に舞う(2021年3月 光文社 / 2022年9月 光文社文庫)
・乱鴉の空(2022年8月 光文社 / 2023年9月 光文社文庫)
・野火、奔る(2023年10月 光文社)

本のタイトルを眺めただけで、ちょっと闇がただようような(笑)。

 

🔳「風を紡ぐ 針と剣/縫箔屋事件帖」あさのあつこ

深川の縫箔(刺繍)屋「丸仙」の娘・おちえの竹刀が盗まれた。おちえの父が大店のため縫い上げた花嫁衣裳にも不穏な影が忍び寄る。剣の達人であった職人・一居(いちい)もその気配に気づくことができなかった賊の意外な正体は? おちえにも突然求婚者が現れて・・・続々重版の大人気時代青春ミステリー「針と剣」シリーズ第3弾。(ネットから引用)。

前掲の「弥勒シリーズ」と同じあさのあつこさんの長編時代ミステリーですが、弥勒シリーズとは打って変わって、こちらは明るいタッチの物語です。主人公は、剣術が三度のメシより好きな町娘。身の回りで起きる不可解な事件を住み込み職人の青年(訳アリの元武士で剣の達人)と解決していきます。淡い恋心❤とともに。

シリーズものはやめられませへんなぁ。

これも人気シリーズで、図書館で半年くらい待ってました。


以上は娯楽小説ばかり。

 

あと1冊、珍しく純文学も読んでみました。2018(平成30年)の芥川賞受賞作。

🔳「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子

74歳、ひとり暮らしの桃子さん。
おらの今は、こわいものなし。
結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピック(昭和39年)のファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出した桃子さん。身ひとつで上野駅に降り立ってから50年。住み込みのアルバイト、夫となる周造との出会いと結婚、二児の誕生と成長、そして夫・周造の死。
「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」
40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとり茶をすすり、ねずみの音に耳をすませるうちに、桃子さんの内から外から、声がジャズのセッションのように湧きあがる。捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、そして亡き夫への愛。震えるような悲しみの果てに、桃子さんが辿り着いたものとは?
(ネットから引用)
老いて、ひとりになることへの戸惑いや不安、その反面、もう人との関係に縛られずに自由に生きられるのだという解放感。リタイアしたわたしにも、そんな桃子さんの気持ちが多少なりとも理解できます。

作品の中では、東北弁(岩手弁?)による独白が連綿とつづきます。単語も言い回しも、たぶん現地のしゃべり方なんでしょうね。自分の気持ちは自分の母語でしか言い表すことができない、ということってありますよね。その雰囲気がよく伝わってくる作品です。

お話の中で、別居している娘が最近やさしくなってよく家に来るようになるというくだりが出てきます。案の定、「実は息子の教育費が嵩んで、ちょっとばかり応援してくれないか」ということだったのです。「ダメだ」というともう二度と顔をださなくなる。あるあるですね。(わが家では、最初から諦められていますけど・苦笑)。
(追記)

「おらおらでひとりいぐも」という不思議で印象的な本のタイトルは、宮沢賢治のファンなら、すぐにピンときますよね。この作品が芥川賞を受賞したときの新聞記事で、「へぇ~、あの詩のなかのあの1節やな」と思い、気になっていました。

「おらおらでひとりいぐも」というのは、「けふのうちに とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ」で始まる宮沢賢治の「永訣の朝」という長い詩の中に、意表をついたように出現するローマ字の1節です。「永訣の朝」は、賢治の妹・トシの臨終の場面を詠った詩。
「Ora Orade Shitori egumo」
「わたしはわたしでひとりいきます」という意味です。

トシは肺病で亡くなる間際のベッドの上で、兄・賢治にこうつぶやきます。

おらおらでひとりいぐも

うまれでくるたてこんどはこたにわりやのごとばかりでくるしまなあよにうまれてくる

・・・私は私でひとりで行きます。また人間に生まれて来るときは、こんなに自分のことばかりで苦しまないように生まれてきます。