前回、全体の簡単な感想書いたんで、今度はそれぞれのキャラについて書いてみようかな、と
最初はやっぱり主役から。
捨之介は、そもそもが古田さんのアテ書きで出来た人物だったってこともあるし過去何度も再演してきてる人気演目でもあるし、難しい役だと思うんですよね。
観る方がすでに先入観とかそういうのがバリバリある役だもん。
初演から、なんてコアな客もいるし、アカとアオはゲキ×シネあるから舞台では観てなくても、観たことある人は多いし。
正直に言えば、その過去髑髏を最上だと思ってる人にとっては、今回の捨之介は最悪の部類に入ってもおかしくないよなぁ、と思った。
だって、最初の立ち位置というか、人物造形が全然違うもん。
天魔王との二役ではなくなったし、信長の影武者という設定も消えた。
変わって出てきたのが、一番多感な時期に信長の薫陶を受け、全てを捧げていた若者、という設定。
過去の捨之介とは全く違うわけで、そうなれば当然、性格も言動も違って当たり前。
むしろ、違ってなきゃおかしい。
けど、違ってることそのものが悪と見る人もいるよな、と。
まあ、そんなわけで、小栗くんは割り食っちゃったと思うんですよ。
オマケに天魔王と蘭丸役が殺陣巧者の二人だしな。
うん、ちょっと可哀想
ま、それはおいといて。
私は面白い捨之介だったと思います。
過去の捨之介が本気で全部捨ててる人なら、今回の捨之介は捨てると言いながら、全然捨てられない人。
捨てたいというのはあくまでも希望であって、実際にはむしろ何もかも抱え込んじゃう人。
だから、彼としては弟分と看做していた蘭丸と天魔王が放っておけない。
たいして係わりもない(ように見える)、沙霧のことも無界の人たちのことも助けなきゃ、とか思ってしまう。
その中途半端さがいかにも若さだなぁと。
そんでもって、私の好きな作家さんの本の中に「幼少期に自分の頭で考えることをせず、何かに盲従してきた人間は、どれほど年令を重ね、以前の自分が間違っていたと判断しても、同じように盲従するものを探す」といった内容の文章が書かれてあったんですが、信長ユーゲントの三人は、まさしくそれだな、と。
ただ、捨之介は他の二人と違って、常時信長の側に侍るのではなく、外の世界を見聞きしていた立場だったわけで、その分、前に進む推進力を持てた人物だと思います。
ただ、そうではあっても、信長の影は偉大にすぎ、そして捨之介は若すぎた。
結果、どこかふらふらと腰の甘い、心に弱さを持つ若者になってしまったんじゃないか、そんな気がしてます。
そして、弱いからこそ、全てを捨てたいと願い、斜に構えようとし、構えきれず捨て切れない。
というか、捨之介が一番捨てたかったのは、自分自身だったのではないかと。
蘭丸との会話の中で、光秀に信長を討たせてしまった時の後悔を口にする蘭丸に、「それは俺も同じだ!」と叫ぶシーンがありますが、あれこそ、捨之介の心の奥底に消すことの出来ない熾火のように残っていたものだと、感じましたし。
で、その後悔があるから、今度こそなんとか悲劇を未然に防ぎたいと思い、自らを捨てても他を救いたいと願った。
それが今回の捨之介だったように思うのです。
ただ、そういう人って余所から見たら歯がゆいことこの上ない。
沙霧が「どうして何も欲しがらない」といった台詞を捨之介に投げかけますが、あれこそ、彼に関わった万人が思うことだよね。
けど、大抵の人間はああいう風にストレートに言えない。
言ったら悪いような気がしたり、そこまで相手に踏み込んでいいのかと躊躇ったり…
まだ少女で、悪い意味でなく分別臭くない沙霧だからこそ、言える台詞だよなぁ、と思いました。
他の場面でも、彼女は実にストレート。
言動の全てが思ったまま、何の作為もない。
その姿や言葉を見て、捨之介は気づいたんじゃないかな。
自身の屈託や、逃げたい、捨てたいと思い続けてきたものの正体を。
捨之介は最後のシーンで、「俺の上に覆いかぶさっていた天を振り払ってくれた」と沙霧に言いますが、つまりそういうことなのだろうと思います。
というわけで、今回のワカドクロ、捨之介視点で言えば、捨てるに捨てられなかった過去のしがらみとの決別と、捨て去ったつもりで捕らわれ続けていた信長の影からの脱却の物語だったな、と思います。
捨之介が、他の誰でもない、彼個人として立つその第一歩の物語。
何年か何十年か後、これこそ俺自身だと思える名を得た彼が江戸の町を闊歩してるといいな。
役者さんについて
小栗くん、舞台で見たのは「お気に召すまま」についで2回目。
あの頃はとにかく若くて綺麗な男の子ってイメージだったんですけど、相変わらず綺麗な人ですよね。
手足が長くて、スラッとしてて、立ち姿が抜群にいい。
若き頃の古田氏もそりゃあ細くてイイ男でしたし、染五郎氏も素晴らしい美男子だと思うんですが、ビジュアル的には最高の捨之介だったなぁと、言わせてください。
鉄煙管振り回してるのも豪快で、良かったと思います。
ただ、手足が長すぎるからか腰高で、刀持っての殺陣はちょっと…
比較相手が殺陣巧者なだけに、可哀想といえば可哀想なんですがね。
とはいえ、東京で観た時は、大阪初見の時に較べて物凄くよくなってたので、頑張ったな、と思います。
演技にしても、大阪では1幕から終幕まで平坦で今ひとつ盛り上がりにかけた演技でしたが、東京ではこれから天魔王を斬りに行く、ってとこの盛り上げ方がすごくなってましたし。
台詞の言い方や見得切ったりするのも、随分進化してて、芝居って生き物だなとしみじみ…
カメラ入ってる日に行ったので、その分、気合も入ってたんでしょうかね。
これは蛇足ですが…
小栗くん、着物の裾、捲り上げすぎちゃいませんか?
太ももがちらちらしてて、思わず「お色気要員?」とか思っちゃいました(笑)
太夫役の小池さんが、観劇前に予想してたより漢前だったんで、余計にそう思いました。
不思議なのは、古田氏がどれだけ着物の裾捲り上げても男臭くなるだけなのに、小栗くんだとお色気になるんだ、ということ。
小栗くんがまだ若いからでしょうか?
それとも私が古田氏ファンで、彼をとっても男前だと思ってるからなのでしょうか?
不思議です。