井上ひさしの脚本って、やっぱり魅力的。
そう思わせる台詞の魅力にどっぷり浸からせてもらいました。
ホント、日本語って面白くて素晴らしい。
そう思わせてくれる、長いけど短い芝居でした。
個人的には物凄く大好きな古田新太という役者、すんげぇ魅力的なんだけど、時折、滑舌の悪さがどうしようもないと思わせられたりすることがあるんですが、今回はかえってそれがたまらんかったと言わせてください。
小気味のいい江戸弁が流れるように続く、いかにも井上ひさし!という台詞は、耳に心地よいだけに、すらすら言われるとうっかり中身を聞き逃しそうな危険性も無きにしも非ず。
それが時折もつれるのが、かえって、太鼓持ちというプロでなくては務まらない職業に就いていながらどこか素人臭さの抜けない、桃八という男の魅力に繋がってる感じがしました。
逆に、若旦那を演じた橋之助さんは、流石に歌舞伎役者だなぁと。
っていうのは、若旦那の台詞って、素養のない凡百の役者が言うと下手したらオカマ口調になりかねない。
台詞を文字にすると分かりやすいんだけど、「そうはいってもさぁ」とか「私はね」とか、普通の今の男は使わない、むしろ字面だけ見れば女が言いそうな言葉遣いを、昔の江戸の商家の男はしてたわけで…
それを音声化する時、あんまりテンション上げすぎるとオバチャン臭いし、だからって男らしさを前面に出すとなんか変。
あくまで「育ちだけはいい馬鹿息子」として喋らないといけないわけで、それをさらっとできるっていうのは、結局歌舞伎役者としてのキャリアとか素養とかが関係してるんだろうなぁと思ったわけです。
ヒロイン?)の鈴木京香さんも色っぽくて素敵。
悪い女とか気風のいい姐さんとか、似合うよね、彼女は。
基本的に上品な人だから、下ネタ台詞も下品にならない。
この芝居は、下ネタ台詞満載なんだけど、淫靡だったりエロだったりはOKでも、下品になったら駄目だと思う。
下品になると、果てしなくいやらしいだけのものに堕して、芝居本来の面白さが半減しちゃうような気がするわけで。
「大人の遊び」って奴だよね。
ストーリーとしては、なんというか、お上の言うがまま流されて取り残される庶民の象徴が主役の二人なんだろうけど、それがあまりにストレートすぎて…といったところかなぁ。
ただ、最後の救いのなさというか容赦のなさが、流石に井上ひさしだと感心しました。
あそこ、普通の脚本家なら、分かりやすくハッピーエンドにしちゃうよね。
それを容赦なく切捨てちゃうあたりが、只者じゃないな、と。
それでいて、あああの二人はあのまんま、「江戸者」として生きていくんだろうな、と思わせてくれて、それが救いでもあったり…
果てしなく面白かったことだけは確かです。