最近、NHKでアニメを放送しているので、ご存知の方も多いのでは、と思われる、上橋菜穂子さんの著書です。
上橋さんのご本といえば、「守り人シリーズ」も有名ですよね。
どちらも素晴らしい作品です。
ジャンルとしては、ファンタジー、児童文学、そういったものになると思います。
ですがこれを子供に独占させておくのはもったいなさすぎます。
私は、「優れた児童文学は、大人の鑑賞に耐えうる」という言葉が嫌いです。
そこには、児童文学を「子供だまし」と侮る意識がありありと表れているからです。
子供向けとか大人向けとか、そういう分け方こそ、下らない権威主義だと思うのです。
優れた文学は、優れた文学、それでいいと思います。
この「獣の奏者」は、優れた文学でした。
完璧に作られた世界で、文字通り生きているキャラクター達。
その生き様を読むことは、本を読むことが好きな人間ならば、まさに至福だと思います。
ストーリーがどうとか、キャラクターがどうとか、そういったことを今更語るつもりはありません。
ただ、この本を読んでいる間、私はとても幸せでした。
それだけです。
文学、ということで、常日頃思っていることがあります。
世の中には、少年少女が読むには不向きな性描写や退廃的表現というものが多くを占める文学があります。
童話ですら、残酷な場面があるのですから、当然です。
そういった、過剰な性描写や退廃表現から、幼い子供を遠ざけるのは、理解できます。
けれど、それは段階的に子供に許されるべきものであって、世の中から消してしまったり、全く禁止してしまったりするものではありません。
ましてや、童話を「平和的」に改変するなど、愚の骨頂だと思います。
今では、残酷だという理由で、白雪姫のお妃さまは真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされることも、かちかち山でタヌキが殺されることもないのだとか。
これは、文学への侮辱です。
そういった下らない改変を行うことで、人は文学を殺しているのです。
私には、そう思えます。
殺された文学は、いつか蘇るのでしょうか?
「不健康だ」「残酷だ」という大義名分の下、子供を無菌状態に置くことが正しいと主張する人々がいる限り、文学の再生は難しいのではないでしょうか。
いつか、汚濁も不公平も醜悪も、何もかもを包み込んでなおかつ美しい、そういう文学の世界が蘇る日がくればいい、と本好きの一読者は願っています。