車内販売の減少を阻止して、維持・発展していくための様々な取り組みを紹介します。
★車内販売は年々減少
車内販売は、年々「衰退」しています。
車内販売を実施している列車が、年々減少してきました。
観光列車以外のJRの在来線特急だと、「あずさ」と「ひたち」だけと言っても良さそうな状況です。
車内販売を実施している特急の減少を表にまとめたのが、こちらです↓
10年前は、今では驚くほど多くの特急で車内販売が実施されていました。
★短距離の新幹線「なすの」「たにがわ」も、昼間を中心にワゴンが巡回していました。
★北陸の「サンダーバード」も車内販売はありました。でも乗車率7~8割で乗客は多いのに、車内販売で買ったのは1両で私だけなんてことが珍しく無かったです。利用者は少なかったです。
★JR九州の「かもめ」「ソニック」の他に、「きりしま」「にちりん」でも車内販売がありました。JR九州のアテンダントさんは親切で、何度も出かけたものです。
★原因は採算の悪化と人材難
車内販売の廃止が続いた理由は、大きく分けると2つでしょう。
●採算の悪化
車内販売の利用者が減少して、採算が悪化してきたこと。
20~30年前は、長時間走る特急・急行が数多く走っていました。
大阪~青森の特急「白鳥」を始めとして、長時間走る列車が珍しくありませんでした。
ところが、航空機が安く乗れるようになり、新幹線の新路線開業もあり、1つの列車に長時間かけて乗ることが減りました。
この時期には、駅の売店が充実してきて、結果的に車内販売の採算が悪化しました。
●販売員の不足
車内販売を行なう販売員が、慢性的に不足してきました。
早朝深夜の勤務、泊り勤務がある場合があるのも一因かもしれません。
(深く堀り下げると数回ぶんの記事になるため、またの機会に)
★新しい取り組み
車内販売は年々縮小していっています。
でも、今までも、車内販売の復興に向けての様々な取り組みがなされてきました。
頓挫してストップした試行も含めて、様々な取り組みをまとめます。
【1】IT技術で販売員を呼ぶ
2019年に上越新幹線「とき」で、スマートフォンとQRコードを利用した車内販売が実施されました。
グリーン車とグランクラス限定、1日1往復だけの「試行」です。
座席の正面のテーブルに、QRコードが貼られています。
そのQRコードをスマホで読み取り、表示された画面から注文。
けっこうスムーズに注文できました。
私が乗って注文した際には、約3分で販売員さんが品物を持ってきてくれました。
この試行から3年半経っていますが、新しい本格的な取り組みには、なかなか進まないようです。
東海道新幹線「のぞみ」一往復でも、将来に向けたITを使った試行を実施したそうです。
利用したかったのですが、私は利用できませんでした。東京~新横浜だけの短区間乗車なら利用したかったのですが、車内販売のために名古屋まで約2万円かけて乗りに行くのは厳しかったです。
【2】予約制の導入
●山陽新幹線の弁当
採算の悪化を防ぐ策の1つが、弁当の予約制です。
弁当は、日持ちしないため、売れ残りのリスク大です。
山陽新幹線では弁当の扱いが無い「のぞみ」が多く、スマートフォンでの弁当の予約「駅弁デリ」を始めました。
駅弁の中身を指定しない場合は、前日でも予約できます。
グリーン車限定で車内販売をする新幹線が増え、博多~広島間の受け取りが不可になり、結構車内販売の維持が大変だと感じます。
【3】観光色を濃くして単価が高いお土産
首都圏の普通列車グリーン車では、車内販売に崎陽軒のシウマイを販売しています。
普段は正直言って、あまり売れません。
でもシウマイが非常によく売れる列車がありました。
鎌倉から横浜、上野を通って土浦まで走る臨時急行「ぶらり横浜・鎌倉号」でした。
私は上野から土浦まで乗りましたが、シウマイを大量に乗せたワゴンがやってきました。
単品販売があるだけあり、すごく良く売れていたのです。
やはり横浜方面に出かけてきた帰りですから、お土産にシウマイを持って帰りたくなるのでしょう。
「横浜&観光」というストーリーに合った品は、売れるのです。
JR九州の観光列車では、車内販売カウンターが行列になることがあり、品物がよく売れます。乗ることを楽しむ列車は、品物が売れます。お金を使うために乗るのが観光列車ですから。
採算を考えるなら、《売れ残りを考えて1か月以上の日持ちする品物》が適しています。
「横浜シウマイ」「博多通りもん」は適しています。
収益を考えると、単価が2000円以上の品が望ましいです。
【4】地元業者に委託
JRまたはJRの関連会社が販売員を手配して運営するのは、地上職員も含めてかなり大規模になります。
車内販売をする列車は1日1往復でも、飲み物などを置く倉庫と管理する職員の手配が必要になります。
そこで、車内販売を地元の民間業者に委託しようという路線があります。
●奥出雲おろち
現在の車両は、まもなく終了しますが、木次線を走る観光列車「奥出雲おろち」です。
1両ぶんの乗客しか乗れませんが、列車には地元の業者がいくつも乗り込んで販売します。
乳飲料、牛肉弁当、アイス、笹寿司などが買えます。
1両で満席になる少ない乗客に、何社も車内販売が押し寄せるのです。
そこそこ採算は取れているのでしょう。
●リゾートしらかみ
青森県と秋田県を走る「リゾートしらかみ」では、地元業者が乗り込む「ふれあい販売」をしています。
業者が短区間だけ乗り込んで、品物を販売して回る形式です。
地元の特産物を、地元の人から買えるのは、ポイント高いです。
「リゾートしらかみ」は、深浦駅で1号と2号がすれ違います。
業者は1号で販売して、深浦駅に降りたら、逆方向に走る2号に乗って再度販売します。
それも《降りたホームの隣》から《6分後》に2号が発車して《出発地に戻れる》わけですから、非常に効率の良いダイヤになっている運の良さもあります。
スマートフォンから弁当類を予約できるモバイルオーダーも始まっています。
私は2022年7月に予約しましたが、悪天候で「リゾートしらかみ」が運休となり、予約は強制取り消しとなってしまいました。利用したかったのですが・・・。
前回の記事「ざらめ煎餅」のように、買って気に入った旅行者が通販で定期的に購入する流れができれば、車内で売れるのが少なくても、採算の向上につながるはずです。
【5】地域活性化と提携
地域の活性化と、車内販売は相性が良さそうです。
地元自治体や観光協会と力を合わせて、車内販売をする取り組みです。
●北海道
宗谷本線と石北本線では、区間限定・期間限定ではありますが、地域活性化を狙って、地域と連携して車内販売を実施する日があります。
釧網本線に冬に運転する「流氷物語号」では、地元の地域おこし団体「MOTレール倶楽部」が車内販売を行ないました。飲み物ではなく、グッズ限定です。
私は、手ぬぐいと乗車記念証を購入しました。
北海道では、できる範囲で無理なく実施する形です。
●会津鉄道
会津鉄道では、地元の自治体と連携して、特産物の車内販売を実施していました。
「会津17市町村ぐるっと!いいもの・うまいものリレー」と題した、会津地方の17市町村が、交替で特産物を車内販売する取り組みです。
交代で地元の市町村が列車に乗り組み、地元の特産物を列車内で販売するのです。
鉄道会社が音頭を取って、地域活性化を図るとも言える取り組みです。
【6】車内販売実施の列車を絞る
車内販売無しの新幹線が増えたら、私のような車内販売を利用したい乗客は、極力車内販売ありの新幹線に乗るようになります。
博多~新大阪の「さくら」で車内販売が廃止されましたから、車内販売を利用したい人は結果的に「のぞみ」を利用するようになります。
「やまびこ」の車内販売が廃止されましたから、東京~福島間で「やまびこ」に乗る客は、車内販売を利用したかったら「つばさ」に乗るようになります。
もちろん弊害もあります。
2+2で座席がゆったりしている「さくら」指定席に乗りたいのに、車内販売が無いのです。席数が少ない「つばさ」の短距離利用が増えて、山形に行きたい人が満席で乗れなくなることにもなり、別の問題も生じます。
こう考えると、小田急ロマンスカーの車内販売廃止は残念に思います。
たくさん走るロマンスカーのうち、GSEで走る2往復だけでも、車内販売を実施すれば、車内販売を利用したい人が集まり、利用率は高まると思います。ついでに展望席に高級弁当をつけて、観光列車のような旅行商品にできると良いのですけど。
【7】短い区間だけ実施
人材不足と採算を考えて、短い区間限定で車内販売を実施したのがJR四国です。
最も走行時間が長い「南風」ですと、2014年当時で岡山~宿毛を約5時間かけて走っていました。
その全区間をワゴン販売するのは無理だけど、丸亀~琴平のたった16分間限定で、車内販売を実施。
できる範囲で、無理のない車内販売をしていました。
私も何度も利用しましたが、残念ながら末期は利用者はほとんどいませんでした。
駅に品数豊富なセブンイレブンができたこともあり、現在は打ち切られました。
とはいえ、あまり効果的な区間は思いつきません。強いて言えば、
「さくら」「みずほ」の博多~熊本間
→→山陽区間も車内販売無いのである程度売れそう
「やまびこ」の大宮~宇都宮間
→→地上の倉庫スタッフが、東京と重複する難あり
「かいじ」の八王子~大月間
→→昔は普通列車でも車内販売あった区間
【8】販売品目の大幅削減
JR東日本が2019年に実施したのが、販売品目の大幅削減です。
「弁当」「ホットコーヒー」「アイス」「グッズ」の販売を止めることになりました。
車内販売の魅力は大幅に低下しますが、人材不足への1つの対策ではあります。
弁当は種類が多く、積み込みもあり、不慣れな新人は、車内販売の仕事に慣れるのに期間が必要です。
ホットコーヒーも紙コップに注ぐ際に絶対にこぼしてはいけません。
面倒な品物をカットして、缶の飲み物など扱いやすい品物だけなら、熟練は不要です。
売れ筋で収益が大きいホットコーヒーの打ち切りに賛成するわけではありませんが、販売品目を減らすのも、対応のひとつかもしれません。
【9】高価な独自商品の販売
「スーパードライ」「一番搾り」といった一般的な350ml缶ビールは、駅の売店で230円前後、車内販売で300円前後です。売店の方が約70円高いのです。
しかし、もっと高いビールも売れています。
たとえば、地ビール「軽井沢高原ビール」は、観光列車「ろくもん」では360円、赤備ラベルは510円です。観光列車の中では、「一番搾り」でなくて地元のビールを飲みたくなる雰囲気になるのです。
列車が走る地域の『良い物』を、お勧め品として攻めのPRをすれば、売れる余地は十分にあると思います。
1本1000円のワインのミニボトル、有名店の2個入り和菓子1000円などは、売りやすい品だと思います。
【10】車掌が大車輪
車掌が通常業務に加えて、車内販売を行なう会社線もあります。
長野電鉄では、昼間のA特急で車内販売を行ないます。
権藤~須坂間の14分間など、停車駅がなく安全確認業務が必要ない区間では、乗務員(車掌)が車内販売のグッズを持って巡回します。
飲み物や食べ物のカゴが回ってくる列車もあります。
車掌ではありませんが、青い森鉄道、えちぜん鉄道では、普通列車に乗って案内するアテンダントが、グッズの販売を行ないます。こちらも、無理のない範囲で増収を目指す車内販売と言えます。
【11】自販機の充実
人手不足が車内販売廃止の大きな理由です。
特に早朝から深夜まで走る列車では、人材不足が大きな問題です。
そこで、近鉄「ひのとり」では、自動販売機を充実させました。
ホットコーヒーの他、軽い食べ物、鉄道グッズも販売機で買うことができます。
JR九州や東武鉄道では、車内販売廃止に加えて、自動販売機の停止が重なりました。
車内販売無しなら、せめて水分補給のための飲み物の販売機は、存続して欲しいと思います。
振動などに対するメンテナンス、入れている缶の期限といった管理が大変なのは理解しますけど。
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従来のような車内販売の継続が厳しい列車が、ますます増えています。
その場合、スパッと車内販売を打ち切るのは、利便性が大きく低下します。
何とかして、車内販売継続の方法を探って欲しいものです。