大器晩成 | 車内販売でございます。

車内販売でございます。

車内販売を15年半で11000回を利用してきた「車内販売大好きな乗客」が書くブログです。 多数の観光列車に乗り鉄しています。

 今回は、以前「採用&研修」に関して書いたアメンバー限定記事を、改変して公開する。

 クリスマスの時期、12月24、25日の両日は、12時間拘束・実労11時間で忙しい。20歳台の若手は、「この日は休みください」と望む日だが、「大人の休日倶楽部パス」を利用できるようになったオヤジは、むしろ「仕事したい日」だ。
 こんな日に休みができて乗り鉄しても、若い2人が片寄せ合って、目のやり場に困るからだ。(この話題は、こちらにも↓)
http://ameblo.jp/syanaihanbai/entry-11621317328.html

 11時間労働が続いては、気合が入った文は書けないので、ご了承くださいな。
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 首都圏普通列車に乗務するグリーンアテンダントさんだが、他の仕事から転職してくる人もいる。もちろん、学校を卒業して、すぐグリーンアテンダントになる人もいる。
 
他のサービス業から転職してきた人なら、接客の経験が活きて、スムーズに仕事に入っていける。

 しかし、学校を卒業したばかりの新人アテンダントは、社会経験、接客経験がほぼゼロである。だから、慣れるまでは、大変だ。今回は、社会経験のないと思われる新人アテンダントさんの話。

 

 今から5年ほど前に、2人の新人アテンダントが、乗務を始めた。2人とも「高校生です!」といっても充分通じる若い女性だった。ただし、この2人には大きな違いがあった。


 そのうちの1人は、「天才」だった。
吸収力が抜群で、気配りもできた。

 乗客が二階建てグリーン車のトイレから、二階の座席に戻ろうと扉に近づいたら、急に自動扉が開いた。私がタッチする前だから「何だ!」 と驚いたら、このアテンダントさんが開けてくれたのだ。

 私が短区間の乗車をした時、巡回の時にアテンダントさんは車内販売のカゴを持っていなかった。「あら買えないや」と思ったら、私の顔を見てすぐカゴを持って再度来てくれた。

 車内販売のカゴの中身も変えていた。1順目で、小さな子供連れが多いと分かったら、2順目にはお菓子をカゴに増やして回ったこともあった。(私はマニアだから、こういう小さなことに感動するのです)

 大きな駅を過ぎて車内販売に向かう時は、カゴに入れていたぬるくなったコーラを、冷蔵庫で冷えたものに交換する。

 新卒だと、最低限の仕事を確実にするだけで精いっぱいになりがちだ。より良い仕事をしようとする余裕がない人が多いのだが、私が見た限りでは、難なくこなしていった。

 すごい新人で、まさに「天才」だと思った。

 

 もう1人の新人さんは、どうか。この新人アテンダントさんは、初めは全く余裕が無かった。

 車内を巡回する時は、表情が引きつっていた。「ミスしたらどうしよう」というような不安の固まりだった。「270円頂戴しましたので、30円のお返しになります」という定番のセリフも、噛んでしまう。誰でも最初はそうだが、客から見てもハラハラさせる仕事っぷりだった。

 慣れていない仕事だけど、1か月すれば、余裕ができてくるものだと思っていた。

 しかし、3か月たっても、固い表情のままだった。最低限の仕事は問題なくできて、人並みの仕事はできるようになった。準備室にこもらずに、しっかり巡回して、見送り出迎えをして一生懸命さは伝わってきたが、やはり不安で固い表情のままだった。

 その理由の1つは「気が付きすぎる」点にあったようだ。

 こんなことがあった。グリーン車の2階最前列前の客が居眠りをして、メガネケースらしき荷物を、床に落としてしまったが、気づかないで眠り続けていた。アテンダントさんは拾ってあげようと居眠り客の横に向かおうとしたように見えた。すると近くの客から「ビールちょうだいい。で、つまみは何があるの?」などと話しかけられた。落ちているのを見て見ぬふりはできないし、当時は「少々お待ちください」と言う余裕もなかったようで、更に辛い表情になってしまった。

 よく状況を人一倍よく観ているのに、対応能力がまだ見についていないようだった。敏感でよく気づくのに、うまく対処できないと悩んでいるようだった。もし鈍感なら悩む必要はなかったのに・・・。

 あとで分かったことだが、このアテンダントさんを乗務しながら仕事を教えたのは、非常に凄い腕を持つカリスマアテンダントだった。とてつもなく凄い仕事っぷりを間近で見たことで、「自分は全く良い仕事ができない」と感じたわけだ。
 これだけ気づいて向上心があるアテンダントさんだから、応援したくなった。
 
準備室から車内販売に向かう時に、ぬるくなっている飲み物を冷えたのに交換してカゴに乗せると、私は「良い仕事だね~腕上げたね」などと励ましたものだ。

 1年近く経つと、仕事に慣れて自信がついてきたようだ。もともと気が付いて努力を重ねるアテンダントさんだから、新人の中では抜群のレベルになった。

 見送り出迎えは、欠かさない。リクライニングして倒れたまま客が降りるとすぐ戻す。居眠りしている人の横では「車内販売でございます」は小声にする。3年4年と乗務してきた人でも、ここまでできないくらいのキッチリした仕事をするまでになった。新人なのに、50人以上いるこのグリーンアテンダントセンターで5本の指に入る実力と言えた。

 『ドジ』だった新人時代を知っているから、常連客としては、よくここまで実力をつけたと思う。

 悩まない最も最短の方法は、最低限度の仕事ができればそれでよし、と考えることだ。乗客への気遣いナシで、言われたら応じるのが、最も楽な方法だ。

 しかし、より良い仕事を目指して、乗客のために頑張ったこのアテンダントさんは、素晴らしいと思う。楽な道を選んだら、1年後に凄腕アテンダントにはなっていなかったと思う。

 天才も良いが、こういう大器晩成型の人も、良いなと思う。