今回は、かなりマニアックな話。車内販売員が車内を巡回する時に、どこを見ているかという「視線」の話だ。
車内販売員は、乗客の前から歩いてくる場合、視線をどうするかは2種類の流儀に分かれる。
一つは「乗客に直接目を合わせずに進む流儀」だ。多くの車内販売員は、こちらだ。
首都圏の普通列車グリーン車のアテンダントさんの多くは、こちらの目を合わせない流儀だ。アテンダントさんは階段を上って二階の客室に入る時に「失礼いたします」と言うが、個々の客ではなく、グリーン客室という「場」にお辞儀をするという感覚に近い。柔道や野球の選手が、練習場に入る時にお辞儀をするのと似ている。
普通列車グリーン車では、スイカでタッチする方法からも分かるように、親切なふれあいより、客の時間を邪魔しないという感覚が強い。客の方をジロジロ見ると、「買ってくれオーラ」を出しているようで、感じよくないと思う人もいるだろう。
東海道新幹線も、普通列車グリーン車に近い。ビジネス客が多いし、たいていは混雑していて個々の客の顔を見ていたらワゴンが進まないという事情もある。
逆に、1両に客が一人だけという状況では、目を合わせにくい。自分1人だけだから、圧迫感を感じてしまう。(昔40人乗りの観光バスで客が2人だけだったことがあるが、ガイドさんは押しつけがましくならないように、「場」に対して観光案内してたっけ)
ただし、直接目を合わせなくても、車内販売員は客の様子はかなり分かっている。
自分の正面から90度離れた真横に人がいれば、細かい表情まではよく分からないが手を振るのは分かるものだ。動きを感じれる幅は180度以上ある。何か欲しそうな表情でこちらを見ていると感じるのは、少し狭くなるが、それでも角度にして120度以上もある。
流儀のもう一つは、「個々の乗客にハッキリと目を合わせる流儀」だ。
乗客の前から車内販売に回る時には、乗客全員と目を合わせて軽くお辞儀するのである。買ってくれなくても大事なお客だから、「ご乗車ありがとうございます」と言いながらである。
この視線は、JR九州の「ゆふいんの森」「はやとの風」などで、見かけることがある。観光列車なのだから、客の時間を邪魔しないという発想より、積極的にコミュニケーションをとるのが、むしろ大切なのだ。
普通列車グリーン車でも、東京GAC所属の某カリスマアテンダントさんは、乗客としっかり目を合わせる。乗車率20%、つまりグリーン車の2階部分に7人ほどなら目を合わせやすいが、窓際席が全部埋まった乗車率60%くらいでも、乗客全員としっかりと目を合わせる。並の人がすると、何人か飛ばしてしまい失礼になりかねないし、これだけでも結構大変だから真似は困難だ。
では、乗客の背後から車内販売に回る時は、どうだろうか。
後ろからなら、乗客の方をじっくり見ることができる。後ろから見て視線が合うのは、ほぼ車内販売員に用がある客だから、「買ってくれオーラ」がウザいなんてことは思われない。
ということは、注意力で差がつきそうだ。後ろから「車内販売で御座いま~す」との声で、ビクッと反応した客が、呼び止めるか特に注意すれば良い。
山形新幹線のカリスマ販売員、齋藤泉さんの著書「またあなたから買いたい!」には、こんな記述がある。
『「齋藤さんは背中にも目があるんじゃないの?」なんて言われることがありますか、もちろんそんなことはありません。ちょっと気になるお客さまがいたら、振り返って視線を合わせてみる。それが背中にも目があるということになるのでしょうか。まだ迷っていても視線が合えば、決断してくださることが圧倒的に多いというのが実感です。(p110)』・・・まさにこの通りだ。
齋藤泉さんや茂木久美子さんなら、ビクッと反応した客がいたら、「このお客さんは既に弁当を食べたから買うなら他のものだな」と考えて、こんなセリフを使いそうだと勝手に想像する。「生乳100%のバニラアイスクリーム、お土産としてラスクフランス・峠の力餅はいかがですか」 ビールやお茶が売られているのは知られているから、選択肢を示したら飛びつきそうなのはアイスと土産を選んで案内しそうな気がする。