車内販売で多く売られるのが飲み物だ。普通列車グリーン車では、カゴに乗せられる種類は限られるが、それでも飲み物だけで10種類くらいある。ワゴン利用の特急だとさらに多くの飲み物が売られている。
飲み物の販売で、担当者の技量がハッキリと表れるのが、特急列車のホットコーヒーの販売だ。
缶入りと違って、こぼして客にかかったら大変だ。熱いコーヒーだと、ヤケドしかねない。ミルクと砂糖をテーブルに置いて、カップにコーヒーを入れて、フタをしてと、とても手間がかかる。慣れていないと、余裕がなくなり笑顔が消えてしまう。
手慣れた人は、手際よく、2人分のコーヒー入れてお釣り渡すまで、たった30~40秒で済ませる。
缶入りの飲み物の販売は、カップ入りコーヒーに比べると難しくはない。しかし、それでも技量の差が結構あらわれる。
比較的よく見られるのが、オレンジジュースを乗客に渡す時に振る技だ。オレンジジュースは下に果汁成分が固まることがあるので、「よく振ってからお飲みください」と書いてある。客ではなく販売する側が振るのである。
真夏に冷蔵庫から冷たい飲み物を出して時間がたつと、缶に水滴がついてしまう。こんな時は、布でふいてから飲み物を手渡すのである。
ただし、一部の凄腕アテンダントさんは、さらに上を行く技を使っている。
あるアテンダントさんは、始発駅でカゴに乗せる時に、缶コーヒーを振ってから入れるのだ。缶コーヒーを振る人は、さほど多くはないと思う。でも缶コーヒーのボス(微糖)は、オレンジジュースほどではないが、コーヒー・ミルクの成分が固まることがある。だから、振って飲むほうが良いのだ。これを客の前でなく、車内販売に出発する準備室内の目立たない場で行うのである。
こんなアテンダントさんもいた。私が東海道線の横浜駅で降りて、ホームからふと準備室内のアテンダントさんを見たら、カゴの飲み物と冷蔵庫の冷えた飲み物を交換していたのだ。長時間カゴに入れていると、水滴がつくうえ、冷たくなくなってしまうからのようだ。
「技」というより「心構え」に近い領域と言える。目立たないところで、しっかり仕事している姿に頭が下がる。