理水作用が豊漁呼ぶ

魚つき保安林

 

小木港城山に「椎の木下」という海岸がある。

シイの木が波打ち際まで茂っている場所であった。

ここに限らず小木の海岸には照葉樹(タブ、シイ、ツバキ等)が多い。

照葉樹を乱伐すると、

その後に松が生えて来ることは、

植物生態学で立証されているところであり、

小木半島の海岸から山中まで松が多い所をみると、

岬は照葉樹で覆われていたに違いない。

 

サケで有名な村上市の三面川河口には、

タブ林がひろがり、これを「魚つき保安林」として保護している。

耳慣れない言葉であるが、

森林法第25条に「魚つき保安林」と明記されており、

魚類の保護、増殖を助長する保安林なのである。

 



昭和54年、

県立村上桜ヶ丘高校林業科の生徒がこの保安林を植生調査し、

タブを主とする林地の存在が、

サケの遡上と密接な関係がある事を研究発表し大きな反響を呼んだ。

それによると、

森林の理水作用が魚類の生活を安定し、

エサを供給し、

光が直射反射しないため魚類を沖へ逃がさず、

水面におとす影は魚類の休息、

避難、産卵に効果があり、

サケが川へ入りやすくしているーとしており、

江戸時代から村上藩の手で保護されており明治44年に

「魚つき保安林」に指定されているものであり、

「林へ子供だけで入るとそのうちの一人がおぼれ死ぬ」

という言い伝えをも残し、

長い保護の歴史があったことを明らかにした。

ちなみに全国の魚つき保安林は昭和21年に46000ヘクタールあったものが、

同52年には28000ヘクタールと半減している。

佐渡には一か所もないが、

海岸の林地には「風致保安林」も多い。

 

森林の理水作用とは、

洪水を軽減し、

乾燥期の渇水をゆるめる治山利水作用のことである。

小木の漁師は

「真水が出る海には、

ワカメがよう生える」

という。

だんだん話を聞くとほかにも、

テングサ、カジメ(アラメ)等が多く、

アワビ、サザエがよくとれるのだそうです。

 

照葉樹の林地は腐葉土が積み重ねり、

それが持つ理水作用のため真水が海へ注ぎ、

そこにはエサとなるプランクトンや、

有益なバクテリアが多いため、

豊かな海になるのである。

小木半島を大きく切り開いたパイロット事業の直後には

定置網が2年続いて不漁となり、

出稼ぎを余儀なくされたことや、

道路工事で海が濁りヤリイカが捕れなかったり、

土を捨てた海でのワカメの枯死等、

数々の海の異常な現実は、

前途のような目に見えない林地の効用が、

海に影響を及ぼしていることを認めさせるものである。

宿根木の漁師はこういう。

「あんちゃんよ、

おれは何十年も磯におるエビを見ておるが、

土が海へ出るとエビはなんもおらんようになる。

そんな年はワカメも生えんちゃ」

と。

 

今日ほどの緑の復権が叫ばれることは、

かつて日本の歴史になかったことである。

それが世界的なことであることも同様である。

今まであまりにもあたりまえのことだったからであろう。

自然の理なのであり、

小さな視点からの

「海は山にあり、

山は海に生きる」

なのである。

 

文:高藤一郎平

絵:佐々木玲子

 

「佐渡自然と草木と人間と」(2003)

著:伊藤邦男

引用させていただきました