雑木の特性を生かす

漁具の知恵

 

小木半島はリアス式海岸が続く。

大小の岩礁が入り組んだ磯には、

多くの海産資源が育っている。

種々の海藻や、

魚介類は振古くから人々の生活を潤してきたのであり、

海岸は大切な生産の場であった。

 

小木の代名詞の感さえするたいらい舟は、

そんな背景をもって発生し、

今日も活躍しているのである。

磯で海藻や魚介を捕る漁業をイソネギという。

たらい舟や、

小舟を使って操業する、

いわゆる貝突き漁であり、

原始的な漁業であるが、

内容は高度な技術を含み、

バラエティーに富んでおり、

漁具にも興味深いものが多い。

それらの多くは、

ヤスとかカギ、カマ島の鉄の部分と、

土地に自生する雑木や竹で作られている。

雑木の特性を実によくとらえ、

単純でありながら機能的な形態は、

道具の神髄なのである。

 

海藻を採る道具の代表は、

カマである。

農業のものより刃は細く薄い。

そのカマには、

ガラズミ(和名ガマズミ)の柄をけずる。

使い勝手が良いように湾曲したものや、

真っすぐなものなど、

形はマチマチである。

ワカメ刈には、

家族全員が出るほどであるから、

どこの家でも数本を持っている。

 

カマは海藻の根元から切り離す道具であるが、

海藻ごと巻きつけて、

むしり取るモテノボウという道具もある。

 

長さ1㍍前後の細いウシゴロシ(カマツカ)を2本、

股状に固定し、

各々に滑り止めの細縄を巻いてある。

 

これで海藻をねじり巻いて根こそぎむしり取る。

ウシゴロシの弾力性が存分に発揮される。

余談であるが、

海藻は食用にならないものも、

軍需品として供出したり、

畑の肥料にも使われたのでモテノボウはどこの漁村にも見られたものである。

 

アワビを捕るケエガキは、

鉄製のカギの柄にシラクチを使う(別名コクワ、サルナシ)。

ツル性の木で、

曲げても折れない丈夫なものである。

民用の世界だけになったかもしれないが、

山のカヅラ橋とうたわれるつり橋は、

多くの場合この木が使われる。

小木の漁師は松前(北海道)から入手していたが、

たまに羽茂地区大崎方面から売りに来たこともあった。

シラクチが手に入らないと、

コメゴメ(和名ムラサキシキブ)や、

ウシゴロシを使うが、

カギ(鉄製)の形状が異なるのは、

興味深い。

コメゴメは、

サザエヤスを作るのに格好な材料である。

晩秋に古代紫の小さな硬玉を結ぶムラサキシキブの木質はち密である。

大工道具のノミの柄にも使われており、

サザエや岩を突いても裂けることがない。

冬の磯に黒々と生えるノリは、

江戸末期のころから半紙状のバンノリに製造されるようになった。

乾燥する時に使うノリズは、

尾花の芯を編んで作る。

岩場のやせ地で育ったものは細くて、

丈夫で、腐りにくい。

それを求めて、金北山まで出かけた者もいた。

 

断片的な文章になってしまったが、

雑木、雑草の特性を上手に利用した道具は

漁具に限らずわれわれの身の回りにあふれている。

この知恵を守り、

活かし続けたいものである。

 

 

 

文:高藤一郎平

絵:佐々木玲子

 

「佐渡自然と草木と人間と」(2003)

著:伊藤邦男

引用させていただきました