花ざかりは5月半ば

薄明の命 トビシマカンゾウ

 

佐渡の海辺の波寄せくだくる荒磯に

黄の色すがしかんざうの花

(毎日歌壇登載歌)

(トビシマカンゾウ)

佐渡の海辺のカンゾウは、

治から夏への移り目に色鮮やかなにくっきりと咲く。

島の春を送り、

夏を迎える花である。

 

正しくはトビシマカンゾウといい、

分布は山形県の飛島と酒田海岸、

それと佐渡に限られているという。

佐渡でも大佐渡の弾崎~二見半島(台ヶ鼻)と、

小佐渡では真野(長浜)~小木半島の主として

北西向きの海岸に分布し、

佐渡海峡の側にはみられない。

花はニッコウキスゲ(ゼンテイカともよぶ)によく似ている。

そのため、

これと同一のものとみられていたが、

昭和24年、

飛島産のものにトビシマカンゾウの名が与えられ、

ニッコウキスゲとは区別されるようになった。

 

トビシマンゾウは全体に大型(高さ1㍍以上)で、

花の数が多く(15~30個)開花が早い(5~6月)などの点が、

ニッコウキスゲとは異なるとされる。

しかし、

佐渡にはニッコウキスゲの中間型のものがあるといわれ、

正確な区別はむずかしいようである。

 

佐渡の海辺の人々は、

ヨウラメ、ユラミ、ヨラミなどの方言でこの花を呼ぶ。

「ヨウラメの花盛りは、

5月なかばごろですのお。

あの花ん咲くように、

鯛がよけい来るようになると言っとります」

と教えてくれたのは、

小木半島江積の佐藤岩雄氏と作平(屋号)さん。

「あたりが青山になると、

オオバイワシが入ってくる」

「仁井屋の山桜がさくと、

マス漁が終わる」

とも聞いた。

海辺の人々は自然の変化から、

漁期を知ったのである。

ヨウラメの花もその一つであった。

二見半島の稲鯨では

「ヨウラメが咲くとセイナゴが行ってしまう」

「ヨウラメが咲くとコイカがとれる」、

外海府の大倉、

矢柄では

「ヨウラメが咲くとコチ突きの時期」

というそうである。

 

ヨウラメはまた、

畑作に役立った草でもある。

「最近は道をつけて少のうなったが、

昔は、

ひと山ずうっと咲くこともあった。

これを刈って肥しにしたもんだ。

なたできざんでだる(肥えだる)にいれとくと腐る。

ニドイモのこやしによかったもんだ。

山の持ち主は、

やたらに取らせなんだ」(前記、作平さんの話)。

 

佐渡には、

もう一つのカンゾウが野に咲く。

赤みの強い八重咲のヤブカンゾウがある。

(ヤブカンゾウ)

花期は7月頃。

相川の戸地では、

海辺のトビシマカンゾウを「ヨラミ」、

畑のくろや平(ひら)にも咲くヤブカンゾウを

「カンゾウ」と呼んで区別している。

松ヶ崎ではヤブカンゾウを「キチキチカンゾウ」と呼ぶ。

 

大野亀一帯に咲くトビシマカンゾウの花の数は、

100万以上と言われる。

一つの花は朝に咲き、

夕べにしぼむ「一日花」。

薄命の花である。

 

文:近藤治隆

 

「佐渡自然と草木と人間と」(2003)

著:伊藤邦男

引用させていただきました